膨らみに膨らんだ期待を「まあまあ落ち着きたまえ」と自ら宥(なだ)めつつページを開き、読み進めるうちにそんな宥める気持ちもどこかへ吹き飛んでしまい、夢中で読了してすかさず「ブラボー!」と快哉(かいさい)を叫んでしまった。今村昌弘『魔眼の匣(はこ)の殺人』(東京創元社 1700円+税)は、2017年に刊行されるや大絶賛を巻き起こし、このミステリーがすごい!、週刊文春、本格ミステリ・ベスト10、各ランキングで第1位に輝き、さらに第18回本格ミステリ大賞[小説部門]まで射止めた破格のデビュー作『屍人荘(しじんそう)の殺人』(第27回鮎川哲也賞受賞作)待望の続編だ。


 夏に起きた“紫湛荘(しじんそう)の事件”から三か月あまりが過ぎたある日、大学生の葉村譲(はむらゆずる)は、1年先輩の剣崎比留子(けんざきひるこ)に、オカルト雑誌の記事を見せる。そこには、ふたりが生き延びたあの事件が編集部に届いた怪文書として“予言”されていたこと、数十年前に人里離れた某村の奥に“M機関”を自称する者たちが施設を建てて超能力実験を行なっていたらしいことが載っていた。

 またしても“班目(まだらめ)機関”との関わりを知ったふたりは、その施設があるというW県I郡旧真雁(まがん)地区を目指す。たどり着いた山間の村には“魔眼の匣”なる異様な建造物があり、予言者といわれる老女“サキミ様”の住処(すみか)となっていた。そこで葉村と比留子を含む来訪者たちは不吉な予言を教えられる。あと2日のうちに、この真雁で男女がふたりずつ4人死ぬ。するとほどなくして予言をなぞるように事件が……。

 前作ではクローズド・サークルを形成する衝撃的な“現象”が大きな話題となったが、本作はそうしたインパクトは抑えられているものの、本格ミステリとしての手の込んだ趣向や難易度の高い試みが段違いで盛り込まれており、今村昌弘が秘めていた手練手管の多彩さにいたく感心した。うっかり著者が見過ごしたかのようにも取れる複数の小さな違和が終盤でみるみる回収されていく一連の流れも見事で、じつはどれもこれもが思惑どおりであったと明かされる興奮は、ミステリを読み慣れていない読者にも大いに歓迎されることだろう。

 さらにシリーズとしての進展についても抜かりがなく、読者が思わず首を伸ばしに伸ばしたくなる幕の引き方も申し分ない。『屍人荘の殺人』で見せた才能の鋭い閃(ひらめ)きが、一瞬のものではなかったと誰の目にも決定づける、本年必読、文句なしの傑作だ。