アンモラルな世界観と特殊設定を駆使した異形のパズラーで、本格ミステリ界の最凶異端作家としての道を突き進む、白井智之。お前の彼女は二階で茹で死に(実業之日本社 1700円+税)は、パッと見、意味はわかりかねるもののインパクト抜群のタイトルもスゴイが、中身も呆れるくらいぶっ飛んでいて仰(の)け反(ぞ)る。


 遺伝子疾患で肌がミミズのようになり、手から粘着力のある液が出る「ミミズ人間」が存在し、差別されている世界。人生に行き詰まったミミズのノエルは自殺を考えるが、どうせ死ぬなら少女をレイプしてから死のうと、高級住宅街ミズミズ台へ向かう。そのミズミズ台では、水槽で飼われていた肉食性の水棲生物「ミズミミズ」に乳児が全身を食い荒らされる事件が発生。この事件を捜査する刑事のヒコボシは、監禁している天才女子高生マホマホに犯人を推理させることに。彼女が出した答えは……。

 このあと物語は、「アブラ人間」のいる山奥の料理屋で起きた毒殺事件、「トカゲ人間」のいる温泉地の旅館で起きた女将(おかみ)殺しと続き、そしてノエルがある目的のために“劇団”を訪ねるエピソードで驚天動地の展開を迎える。こんなにも不謹慎で猥雑なのに、連作形式と多重解決を存分に活かした本格ミステリとして惚れ惚れするような手際を見せてくれるからたまらない(エピローグ的な「後始末」で披露される真相の、なんと苦々しく容赦ないことか!)。現時点での著者最高傑作と太鼓判を捺す。 

 2011年に鮎川賞受賞作『眼鏡屋は消えた』でデビューした山田彩人の4年ぶりとなる新作皆殺しの家(南雲堂 1800円+税)は、〈本格ミステリー・ワールド・スペシャル〉レーベルらしい、不可能犯罪と奇想をこれでもかと盛り込んだ連作タイプの長編だ。


 古びた洋館に住む女性刑事の主人公――亜季が、転がり込んできた二卵性双生児の妹――羽瑠と、亡き兄の友人で殺人事件の容疑者であり、いまは洋館の地下牢にかくまわれている青年――光彌を相手に、奇妙な事件の数々を語っていく。身体の一部が凍った状態で夏の海に浮かんでいたパーティーの招待客。小さな妖精が歩いたとしか思えない雪の足跡。周囲に高い建物のない広場の中央で発見された全裸の墜落死体。特殊な館で起きた殺人事件と雪の密室。自室でダンボールに押し込められていた死体と首飾りの行方。そして、光彌が犯人とされている家族殺し……。

 鉄格子の向こうにいる天才的犯罪者が探偵役を務める『羊たちの沈黙』タイプの物語と思っていると、終盤で意外な貌(かお)が現れ始める。それまでの不可能犯罪や奇想といった遊戯性が霧消してしまうような、こんな悪魔的な真相が待ち構えていようとは。