東京創元社が「次世代を担う新鋭たちのレーベル」として立ち上げ、昨年9月、岡崎琢磨『夏を取り戻す』で、めでたく第100回配本を迎えた叢書(そうしょ)《ミステリ・フロンティア》。その「100冊突破記念刊行作品」である伊吹亜門『刀と傘 明治京洛推理帖』(東京創元社 1700円+税)は、全5話からなる連作集だ。


 慶応3年(1867年)。冬の京都は「大政奉還」と「王政復古の大号令」により、動乱の最中にあった。尾張(おわり)藩公用人の鹿野師光(かのもろみつ)は、そこでひとりの人物と邂逅(かいこう)を果たす。佐賀藩士、江藤新平(えとうしんぺい)。のちに初代司法卿となり、日本における近代司法制度の父と呼ばれることになる男だ。物語は、このふたりが幕末から明治にかけて、京都で係わった5つの事件を描いていく。

 潜伏中の維新志士が滅多斬りにされた惨劇のカギを握るのは、隠れ家を知る四人の仲間のなかにいるのか(佐賀から来た男)。弾正台(だんじょうだい)京都支台の密室状態の部屋で自害したと思(おぼ)しき大巡察の死は、本当に自らの手によるものだったのか(弾正台切腹事件)。夕刻には処刑される囚人が、なぜ昼餉(ひるげ)に毒を盛られて殺されたのか(監獄舎の殺人)。市政局次官の妾(めかけ)が企んだ完全犯罪の思わぬ綻(ほころ)び(桜)。参議を辞した江藤が、かつて死刑囚が毒殺されたあの監獄舎で、ふたたび殺人事件に遭遇し、師光と相まみえることに(そして、佐賀の乱)。

 5つの物語はいずれも、本格ミステリとしても歴史時代小説としても一級の出来栄え。なかでもとくに驚いたのは、第12回ミステリーズ!新人賞を受賞し、収録作中もっとも早く発表されている「監獄舎の殺人」だ。法月綸太郎の傑作「死刑囚パズル」と同じ、死刑当日に囚人が殺されるという謎にあえて取り組んだ大胆不敵な作品で、二番煎じの誹(そし)りをまったく寄せつけない際立った独自性で絶賛を勝ち得た作品なのだが、こうして3話目に配置されることで、さらに全体の評価を大きく押し上げるほどの最重要エピソードになろうとは思いもしなかった。

 時代の転換期ゆえに親友でありながら反発するしかなかった、師光と江藤の正義の相克が醸し出す哀しみ。そして、まるで物語の流れを一刀のもとに断ち斬るようなラストが、歴史に記録されることのない、ままならぬ友情の儚(はかな)さをなんとも切なく浮かび上がらせる見事さは、このエピソードの絶妙な配置なくしてはあり得ない。もしも「監獄舎の殺人」発表時にこの一連の構想がすでに固まっていたというなら、これは驚くべき才能といえる。とにかくなにをおいても絶対に読み逃してはならない一冊だ。とくとご堪能いただきたい。

《ミステリ・フロンティア》から、もう一冊。鵜林伸也(うばやししんや)『ネクスト・ギグ』(東京創元社 1900円+税)は、100冊突破記念の「特別書き下ろし作品」と銘打たれた、ロックをテーマにした長編作品だ。


 ライブハウス「ラディッシュハウス」で不可解な事件が起こる。このライブハウスの経営者でもあるギタリスト――クスミトオルがリーダーを務める人気ロックバンド〈赤い青〉の演奏中、クスミがあり得ないギターのミスを犯し、さらにその直後、ボーカルのヨースケが絶叫するやステージ上に崩れ落ちてしまう。胸には千枚通しが突き刺さっており、病院に搬送後、死亡が確認される。クスミは、かつて組んでいたバンド〈サウザンドリバー〉でもボーカルを亡くしており、様々な憶測が囁(ささや)かれるなか、さらなる事件が……。

 まさに密室状況である衆人環視のステージ上で起こった殺人事件という、じつに魅力的な謎。それを扱う論理の手つきも折り目正しく丁寧(ていねい)で、たちまち好感を覚えてしまった。加えて探偵役を思わぬ方向から登場させる心憎いセンス、物語に通底する「ロックとはなにか?」という問いを「本格ミステリ」に重ねて語ってみせる趣向にも大いに感心した。

 ロックを強く切実に想うがゆえの功罪が明らかにされたその先に、タイトルが見事に映える結末が用意されており、シビれること請け合いだ。これまで津原泰水『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』がロックとミステリを扱った孤高の傑作だと感じていたが、いまこうして新たな才能により、その血が正しく受け継がれたことが嬉しくてならない。