朝倉かすみ『平場の月』(光文社 1600円+税)は50歳のしみじみとした恋愛を描いた作品。

 現在50歳の青砥健将(あおとけんしょう)は埼玉の地元で一人暮らし。かつては妻子と都内に住んでいたが、6年前に父親が死に、母の近くで暮らそうと地元の中古マンションを購入。その後妻子が出ていき、3年前には母親が卒中で倒れたため地元の印刷会社に転職、昨年その母を施設に入居させたばかりだ。ある日再会したのは中学生時代の同級生、須藤葉子。彼女も一人暮らしであり、二人は「互助会」と称して時折酒を飲む仲になる。じつは波瀾万丈の人生を辿ってきた様子の須藤。親しさを増す彼らだが、ほどなく、須藤のほうに身体の異変が見つかる。大腸がんに侵されていたのだ。

 穏やかで面倒見のよい青砥、人を頼ることが苦手な須藤。二人の仲はなかなか縮まらない。でもその分、じっくりと人間同士の信頼関係が育(はぐく)まれていく様子が、なんと好ましいことか。相手のことを大切に思うからこそ、青砥は病と闘う彼女の世話をしたいと思い、同じく相手のことを思うからこそ、須藤は迷惑をかけたがらない。それでも、手術を受けた後の須藤は、彼の手を借りることにする。このもどかしい二人を結びつけるのは、皮肉にも、彼らの仲を引き裂こうとする病なのだ。

 冒頭で、須藤の死は明かされている。しかも、青砥はそれを偶然知るのだ。では、そこに至るまでに何があったのか、時は遡(さかのぼ)り、その過程がじっくり描かれていく。この先何が起きるか明かされているからこそ、二人が少しずつ歩み寄る姿が、とてつもなく尊く、愛おしくなる。

「大人の恋」とか「好きな人が死ぬ話」とか、あらすじを一言で説明しようとすると、なんだか安っぽくなってしまう。だが、そんな言葉には含まれない、孤独を引き受けた男女の人生観と他者への思いやりと愛情、そして誰かを喪(うしな)うことの悲しさが詰まっている。著者だからこそ描けた、大人の物語である。

 恋愛のあり方も年齢によって変わる。30代半ばの本音がつまっているのが、朝比奈あすか『人生のピース』(双葉社 1500円+税)。



 34歳の大林潤子は、食品メーカーの広報部に勤務し、それなりに充実した生活を送っている。中学・高校と女子校で一緒だったみさ緒や礼香といまだに親しく、定期的に会う仲だ。ある日、恋愛経験がゼロだった礼香が結婚を宣言、潤子とみさ緒は喜びと同時に、内心焦りを感じる。自分はこの先どうなるのだろうと、不安が生まれたようだ。みさ緒はダメ男の同棲相手と別れてマンションを買うと言い出し、潤子は勢いで以前入会していた結婚相談所に再登録。彼女の婚活と仕事の日々が、時にコミカルにテンポよく語られていく。

 相談所のスタッフのコンサバなアドバイスに苦笑、紹介される相手に対する期待や不満、一方、それとは別に言い寄ってきた相手が既婚者だと知った時の動揺や迷い。結婚を意識しているからこそ、さまざまなバイアスが生まれ、彼女を悩ませる。仕事ではプロジェクトリーダーとなるが、若い部下の斬新な意見に閉口することも。と同時に、40代の一匹狼タイプの先輩女性に興味を持ち、プライベートに関する相談を持ち掛けたりもする。潤子を中心に、さまざまな年代、異なるタイプの女性たちの生き方も見えてくるのだ。

 結末は決して安易ではない。でも、ちゃんと希望はある。人はいくつになっても悩むだろうし、何が正解なのかは分からない。でも、周囲に流されることなく自分にとって大切な“人生のピース”を見つけていこうと思わせてくれる。