毎年恒例の鮎川哲也賞、ミステリーズ!新人賞受賞者のミニインタビューをお送りします。
 『探偵は教室にいない』で、第二十八回鮎川哲也賞を受賞された、川澄浩平さんのご登場です。

①最初に簡単な自己紹介をお願いします。
 生まれも育ちも北海道ですが、ウインタースポーツの類いは一切やらず蟹も食べず、デビュー作の主人公よりも身長が一センチ低い男、川澄浩平です。作品を観たり読んだりした感想を言語化するのが苦手で、行き場のないモヤモヤとしたそれらは身の内から湧いてくるアイディアと混ざりあい、長きにわたり脳内で滞留していました。光栄なことに鮎川哲也賞を受賞し小説家デビューできたので、これからは脳内に溜まりがちなモヤモヤを作品という形にして皆様にお届けできればと思います。

②小説を書き始めたのは、いつ頃でしょうか。
 デビュー後、この質問をされる機会が何度かあり、「本格的に執筆を始めたのは二〇一七年の二月から」とお答えしていました。この言葉に嘘はないのですが、今シーズンのスキージャンプ・ワールドカップにおける小林陵侑選手の大活躍を見て、思い出しました。私は小学生のころ、長野五輪のスキージャンプ団体の日本代表が大逆転で金メダルを獲得したことに感動し、この競技を題材とした小説を原稿用紙に鉛筆で書いていたのです。二枚くらいで飽きてやめましたが。

③どのような経緯で鮎川哲也賞に投稿されたのでしょうか。
 鮎川哲也賞に投稿したきっかけは、米澤穂信先生の「巴里マカロンの謎」が掲載されていた『ミステリーズ!vol.80』にて、同賞の存在を知ったからです。
 小説家を志す以前は漫画原作者を目指していて、実際に原作を担当した読切りを二本発表しましたが、そこから後が続きませんでした。創作を続けるにしてもやめるにしても、一から十まで自分の力でつくった作品を業界の方々に評価していただかなければ納得できないと考えるようになり、小説にチャレンジすることを決めました。

④受賞の連絡を受けた時の印象はいかがだったでしょう。
 落選か受賞か、どちらの報せでも対応できるように心の準備はしていました。別の新人賞へ投じる作品の準備を進めていたので、落選のショックを引きずるわけにはいかなかったのです。
 また、私はひねくれ者なので、受賞の報せで大喜びし、その結果が自分にとって望外のものであったと編集者に思われたくないがために、ご連絡をいただいたときは「ありがとうございます」と抑えめのテンションで応じました。今思えば、この対応もどうかと思います。ですが、正解は未だ自分の中にありません。

⑤受賞作『探偵は教室にいない』は、北海道札幌市を舞台にした「日常の謎」の連作集です。本作を執筆に至った経緯をお聞かせください。
 最初に、語り手となる二人のキャラを思いつき、彼らが輝くのはミステリの世界だと考えるようになりました。これまで漫画の原作としてつくってきたファンタジーやバトルものの反動もあると思います。派手な設定や展開を用意することに少々疲れていたのです。
 札幌を舞台としたのは、東京や京都よりは珍しさを出しやすそうなのと、単純に遠くへ取材に行く資金がなかったためです。とにかく、今作は実在する土地を舞台とすることにこだわりました。現実と乖離する創作上のウソを楽しんでもらうために、土台となる部分はリアリティを出したかったのです。
「日常の謎」というジャンルを選択したのは、最初に思いついた二人が中学生だったからです。

⑥受賞作は、主人公はじめ中学生たちのいきいきとした人物造形が魅力のひとつです。登場人物たちを書く際に意識していることはありますか。
 主要キャラの履歴書を作成しています。埋めた項目全てを作品に反映するわけではありませんが、私の中でキャラクターを「実在してもおかしくない、もしくは世の中に何人かはいるかもしれない人物」として扱うために、使いもしない過去のエピソードを考えたりします(ごく簡単にですが)。創作のハウツー本を参考にして小説用の履歴書のフォーマットを作成しましたが、全ては埋めません。人物の特徴をある程度把握できたら、プロット作成や執筆をしながらキャラクターをつくりあげていきます。

⑦ほかに受賞作を執筆中に気を付けたことや工夫などはありますか。
 余計なことは書かないようにしました。土地の描写や食べ物の感想など、必要以上に書いてしまうと小説ではなく観光ガイドのようになってしまい、それは避けたかったです。基本的には、物語はテンポ良く進行すべきと思っています。

⑧これまでの読書歴、ミステリのマイベストを教えてください。
 正直に申しまして、私はこれまで多くの本に触れてきたわけではありません。書店で平積みされるような、その時々で話題になっている作品を主に読んでいました。そんな私ですが、夢中になって読んだミステリは米澤穂信先生の『さよなら妖精』と高野和明先生の『ジェノサイド』です。私は本を読むペースが非常に遅く、数ページ読んでは目を離し、あれこれ考えごとをしては数ページ読むという感じなのですが、この二作はほぼ一気読みでした。『さよなら妖精』のラストには思わず声を上げ、『ジェノサイド』のラストではハイズマンと同じタイミングで笑みが浮かびました。読者の無意識な感情の発露という、貴重な体験ができたと思っています。

⑨趣味はございますか。
 飽き性なので、これが私の趣味だと言えるものはあまりありません。
 現在のマイブームは、『ベルサイユのばら』(今さら?)。アニメ版を視聴したのですが、とにかく続きが気になって徹夜です。敢えて推したいのは、序盤のマリー・アントワネット対デュ・バリー夫人の女の戦い。そこらへんのスーパーの休憩室で繰り広げられていそうな女の意地の張り合いを怖いくらいに盛り上げる演出と声優の怪演にただただ脱帽です。
 現在、次回作の準備をしているのですが、ベルばら由来のアイディアが本筋の邪魔をして困っています。面白すぎたなぁ……。

⑩理想とするミステリはありますか。
 難しい謎解きではなく、スマートな謎解きを展開するお話。

⑪これから受賞作を読む方に向けて、一言お願いします。
 なるべく世代を問わず楽しめる作品をと思い、執筆しました。おそらく、このインタビュー記事をお読みの方の大半は大人だと思います。この作品を読むことが、ご自身の思い出を呼び起こすきっかけとなれば嬉しいです。

⑫今後の抱負や、次回作について教えてください。
 受賞作の続編を構想中です。将来的にはいろんなジャンルに挑戦したいですが、まずは目の前の作品に集中したいです。


さよなら妖精 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社
2006-06-10





ジェノサイド 上 (角川文庫)
高野 和明
KADOKAWA/角川書店
2013-12-25


ジェノサイド 下 (角川文庫)
高野 和明
KADOKAWA/角川書店
2013-12-25