山本周五郎黄色毒矢事件 少年探偵春田龍介』『殺人仮装行列(末國善己編 新潮文庫・周五郎少年文庫 590円+税、710円+税)は、以前に作品社でまとめられた《山本周五郎探偵小説全集》に収録の少年少女向け作品を全五冊の文庫版に再編集する企画です。作品社版の刊行以降に新たに見つかった別名義作品など、単行本初収録の作品が増補されたのが目玉で、作品社版を買われた方はこちらも黙って買うしかなさそうですね。


《論創ミステリ叢書》からは川野京輔探偵小説選Ⅰ』『同Ⅱ(論創社 各3800円+税)が出ています。川野はNHKのディレクターという本業の傍(かたわ)らミステリの創作を長年手がけたほか、実用書の著書も多数ある才人です。ただミステリの著書は、広済堂出版からノベルスで出た『コールサイン殺人事件』がいくぶん入手し易いものの、地方出版や私家版が多くて集めるのは難しいでしょう。大規模な消失トリックをコンパクトにまとめた「消えた街」など、ミステリの代表作はⅡ巻にまとめられています。個人的にはⅠ巻のエロティックな怪奇スリラーのほうをあえておすすめします。
 川野は本名の上野友夫の名義で『推理SFドラマの60年』というテレビ・ラジオの草創期からのドラマ制作現場を回顧する本を刊行していて、ミステリのラジオドラマについての重要な資料として知られています。こちらも復刊の企画があるそうなので、とても楽しみです。

 河出文庫の「KAWADEノスタルジック探偵・怪奇・幻想シリーズ」からは小栗虫太郎紅殻駱駝(べにがららくだ)の秘密(河出文庫 800円+税)が出ています。


 講釈師の寄席(よせ)に行けという怪文書を受け取った小岩井警部は、小菅(こすげ)監獄内で起きた迷宮入り事件の詳細を語る講釈に驚きました。講釈師は拉致(らち)された先でこの話の種本を渡されたと証言し、世間を騒がせたい何者かの存在をうかがわせます。講釈で語られた宝物「シドッチの石」の行方と、その隠し場所だという謎の言葉「紅殻駱駝」をめぐって、小岩井は刑事弁護士尾形修平と共に捜査をはじめますが、先々で殺人事件がおこり……。

「完全犯罪」を新青年に発表するより前に書いていたという小栗の処女長篇で、黒死館殺人事件と比べると通俗味が強いので『二十世紀鉄仮面』の路線をお好きな方に向いています。尾形と小岩井の会話が法水麟太郎(のりみずりんたろう)と支倉(はぜくら)検事を思わせるところもあり、のちの衒学(げんがく)趣味のルーツを感じることもできるでしょう。