翻訳ミステリ界では、今、犯人探し小説が熱い。中でも台風の目が、アンソニー・ホロヴィッツカササギ殺人事件〈上下〉(山田蘭訳 創元推理文庫 各1000円+税)である。


 物語は入れ子構造をしている。まず上巻で主体を成すのは、名探偵アティカス・ピュントのシリーズ最終作《カササギ殺人事件》であるという設定の、1955年のイギリスの村を舞台にした作中作である。貴族の家政婦の死を遂げ、彼女が何にでも首を突っ込むタイプだったことから、村人たちに波紋が生じる。そして第二の死が生じ、アティカス・ピュントの出馬と相成るわけだ。余命宣告を受けた老探偵は、複雑な人間関係を解きほぐし、最後となるであろうこの仕事を完遂できるのか――この物語が、謎解き寸前に行き着いたところで、上巻は終わる。

 下巻に入るやストーリーは一転、作中作ではない物語――《カササギ殺人事件》の作者アラン・コンウェイが急死し、解明部分の原稿が紛失したことに困っている女性編集者スーザンの物語が、本格的にスタートする。アガサ・クリスティらの20世紀中葉の英国謎解きミステリを強く意識させる上巻(ジェンダー意識を含む思想背景も当時のそれ)から、21世紀のワーキング・ウーマンが、担当していた人気作家の謎を追うストーリーに切り替わるわけだ。

 この変わり身は奇麗に決まっており、読者は一抹(いちまつ)の戸惑いと共に、奇妙な構成に対する期待を抱くことになる。しかも上巻のストーリーが本当にいいところで中断される上に、続きをスーザンが探す話が始まるわけだから、読者は先が気になってならなくなるはず。上手(うま)い。また、上巻と下巻で違う話になるとはいえ、死んだ人間が嫌な奴という点では共通しており、全体的には何となく調和がとれてしまう。

そして最終盤で、近年最強クラスの精緻(せいち)にして巧妙な伏線配置が明らかとなるのだ。ただでさえ驚くべき真相の衝撃を何倍にも増幅しつつ、作品の完成度(丁寧(ていねい)度と言ってもいい)をぐっと高めるのだ。伏線たるものかくあるべし。

 犯人探しではもう一作、カレン・M・マクマナス誰かが嘘をついている(服部京子訳 創元推理文庫 1200円+税)もお勧めだ。放課後の、5人の高校生と教師しかいない理科室で、生徒の一人が昏倒(こんとう)し、死んでしまう。死因はアレルギー反応だったが、警察は殺人事件だと考えて、他の4人の生徒に容疑をかけた。死んだ生徒は学校のゴシップ・アプリの運営者であったうえに、同室していた生徒の秘密を、アプリに掲載する寸前だったからだ。


 物語の色調は青春群像劇である。容疑者の四人は、優等生、札付きの悪(ワル)、野球部のエース、学校のお姫様と、個性も境遇もばらばらだ。彼らはそれぞれ秘密を抱え、暴かれ、事件に動揺し、友人、恋人、家族との関係に懊悩(おうのう)する。だが若さゆえ突っ走ることもある。青春の酸っぱさとまっすぐさがみっちり詰まっていて、好きな人にはたまらないはずだ。

 で、そんな青春模様の中で、実に真っ当に犯人探しをしてくれるのである。名探偵然とした学生が事件解明に出しゃばるのではなく(そういう作品がダメって言っているわけじゃないですよ)、もっと普通の、オタクでも超人でもない学生たちが、自然な流れで解明する。それがいい。しかも伏線がしっかりしている。青春小説としても謎解き小説としても真っ向勝負、ストレートな切れ味が爽快でした。