葵瞬一郎オホーツク流氷殺人事件(講談社ノベルス 920円+税)は、放浪を続ける人気ミステリ作家――朝倉聡太が活躍するトラベルミステリシリーズの第2弾。前作『東海道新幹線殺人事件』では、ほぼ同時刻に新幹線のぞみ(下り)とひかり(上り)から頭部切断死体が発見され、さらに列車がすれ違った瞬間に死体の首が入れ替わったとしか思えない不可能犯罪が描かれ、デビュー作ながらトリックメイカーぶりを見せてくれた。


 一年ぶりの新作となる今回は、流氷に載って死んでいた美女の胃のなかから見つかった呪いの勾玉(まがたま)を発端とする、北海道の名家連続怪死事件に朝倉が挑む。過去に起こった二度の殺戮(さつりく)、家宝の盗難、そしていままた三度繰り返される惨劇。約220ページのコンパクトな分量とは思えない事件の盛り込み具合、内田康夫作品のキャラクター性と吉村達也作品のトリッキーな魅力をあわせたようなテイスト、トラベルミステリーならではのアリバイ崩しなど、いま改めてノベルスらしい面白さを強く意識した作風に、つい嬉しくなってしまう。プロフィールには「10月11日、東京都文京区生まれ」としか記されていないが、この謎めいた新鋭――葵瞬一郎、見過ごしてしまうのは惜しい逸材ですぞ。

 東野圭吾沈黙のパレード (文藝春秋 1700円+税)は、物理学者の湯川学が不可解な事件を解き明かす〈探偵ガリレオ〉シリーズ6年ぶりとなる書き下ろし長編だ。前作『禁断の魔術』でアメリカに渡った湯川が、ついに帰国。准教授から教授となった湯川、係長に出世した草薙(くさなぎ)刑事、その部下の内海薫が今回手掛けるのは、複数の人間が関わったと思(おぼ)しき復讐の謎だ。


 静岡県の焼けたゴミ屋敷から見つかったふたつの遺体。そのひとつは三年前に東京で失踪した若い娘――並木佐織のものだった。容疑者として浮かんだのは、かつて草薙が捜査に携わった少女殺害事件で無罪となった、蓮沼寛一。だが、蓮沼は当時と同様に沈黙を貫き、証拠不十分で釈放となったばかりか、まるで挑発するかのごとく遺族の前に姿を現す。激しい怒りを募らせる、遺族と親しい者たち。佐織は定食屋「なみきや」の長女で、常連たちから愛され、歌手を目指すほど歌の才能に秀(ひい)でた、町でも知られる存在だった。そして秋祭りのパレード当日、蓮沼を狙って復讐者たちが考え抜いた渾身の計画が実行される……。

 復讐に立ち上がった者たちは、いかにしてパレードの最中に憎き蓮沼を死に至らしめたのか。容疑者すべてが犯行に関与している某名作の変奏ともいえる事件だが、関係者全員が計画のすべてを把握しているわけではないため、全容を見抜くことは容易ではない。鉄壁のアリバイに挑むだけでなく、化学を駆使した殺害方法の検証など、シリーズならではの見せ場も含まれているが、こうした復讐の仕掛けが解き明かされる場面が本作一番の読みどころではない。

 終盤に至り、湯川がある人物を訪ねて以降、物語は予想もしなかった驚きの変容を遂げる。この真相の意外性と衝撃度はシリーズ屈指。近年、毎年10月になると文藝春秋からジェフリー・ディーヴァーの新作が刊行されているが、同月に同版元から上梓(じょうし)された本作は、まるで「どんでん返しではこちらも負けてないぞ」という東野圭吾の高らかな宣言のようにも思える――といったら少々穿(うが)ち過ぎだろうか。