多岐川恭『落ちる/黒い木の葉』(日下三蔵編 ちくま文庫 950円+税)は、第1短篇集と第2短篇集を再編集した復刊です。多岐川の現代ものが復刊されるのはたいへん久々で、創元推理文庫から傑作選五冊が刊行されて以来になります。
直木賞受賞作「落ちる」「ある脅迫」「笑う男」を含む第1短篇集は、モノクロ映画が似合いそうなスタイリッシュなサスペンスが揃っていて、今なお色あせない傑作ですね。50余年ぶりの復刊となる第2短篇集も、執筆時期が重複していることから当然ではあるのですが傑作揃い。「澄んだ眼」「おれは死なない」あたりの冷ややかな視点にはしびれてしまいます。多岐川の短篇はなかなか再評価の機会に恵まれませんが、中後期の通俗的な作品まで面白いので、引き続いての復刊紹介を期待しています。スラム街の無免許医師を探偵役に据えた連作短篇『無頼の十字路』あたり、広く読まれてほしいのですけれど。
画家の家にうまれた淳には、ある少女と出会い、そしてうちのめされた少年時代の夏の思い出がありました。その少女と大人になって再会してから、初めての個展では画廊の火災によって多くの絵を喪(うしな)い、更に画家の兄の絵が何者かに酸で台無しにされるなど、周囲に不穏な事件が続いて……。
耽美的な描写にひたった読者にもたらされる衝撃の真相は、代表作『この闇と光』の源流とでも評すべきもので、厭(いや)な話を読んでしまったという後悔と、そしてまたもっと読ませてほしいという渇望とがともに読後に残ります。河出文庫からは突然の復刊という印象がありますが、服部作品の紹介は今後も続くのでしょうか。服部のゴシック・ロマン路線では傑作『シメール』が長らく文庫化もされておらず、ぜひ読めるようになってほしいのです。
《論創ミステリ叢書》からは『飛鳥高探偵小説選Ⅳ』(論創社 4000円+税)が出ています。収録された長篇が飛鳥作品では最も新しい『青いリボンの誘惑』であるのは意外でしたが、なるほど自選作品集なのですね。短篇は各年代から満遍なく採られていて、その当時の思い出話とともに語られる自註自解がやはり読みどころでしょう。
小沼丹の生誕100年を記念した企画として、既存の作品集・全集に未収録の作品が幻戯書房から刊行されています。その中で『不思議なシマ氏』(銀河叢書 4000円+税)、『小沼丹未刊行少年少女小説集 推理篇 春風コンビお手柄帳』(2800円+税)はミステリの読者が注目すべき内容です。会話を主体に飄々(ひょうひょう)とした筆致で謎が語り解かれる、どこか幻想的でもある収録作の中では、いずれも表題作をおすすめしておきます。
今回の企画は『小沼丹全集』(未知谷)未収録作から選ばれたものですが、全集収録作では、例えば第一巻はミステリの読者に向いた話が多いので興味をもたれた方にはおすすめします。創元推理文庫におさめられた、女教師ニシ・アヅマを探偵役とする連作『黒いハンカチ』もこの巻に収録されています。