ロイス・マクマスター・ビジョルドといえば、SFの〈マイルズ・ヴォルコシガン・シリーズ〉で大人気ですが、ファンタジーも多数書いています。
 なかでも〈五神教シリーズ〉はビジョルドの、もうひとつの代表作ともいえるシリーズ。ミソピーイク賞を受賞した『チャリオンの影』にはじまり、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を総なめにした続編『影の棲む城』、さらに同じ世界を舞台にした『影の王国』と、傑作揃いなのです。

 2021年6月刊行の『魔術師ペンリックの使命』は2019年9月に刊行された『魔術師ペンリック』の続編にして、〈五神教シリーズ〉の最新作。
 ビジョルドは、このシリーズで2018年にヒューゴー賞シリーズ部門を受賞していますので、五冠受賞の栄光のシリーズといえます。
 さて、この『魔術師ペンリック』『魔術師ペンリックの使命』ですが、これまでの〈五神教シリーズ〉の作品と同様、父神、母神、御子神、姫神、庶子神の五神を信仰する国を舞台にしていますが、時代も国も登場人物もまったく違っています。これまでの作品を読んでいない方でも、ここから読んでいただけるのです!

『チャリオンの影』『影の棲む城』の舞台となったイブラ半島ではなく、『影の王国』の舞台となったウィールドでもなく、連州とよばれる国(地方)の貴族の末子で学究肌の青年ペンリックが主人公の連作中編3編をそれぞれ収録。名手ビジョルドのファンタジイ世界をお楽しみ下さい!

●最新刊『魔術師ペンリックの使命』

「ペンリックの使命」「ミラのラスト・ダンス」
 仕えていたマーテンスブリッジの統治者、王女大神官が亡くなり、アドリアの庶子神神殿に移ったペンリックは、アドリアの大公からセドニア王国のアリセディア将軍に宛てた手紙を携え、船でセドニアに向かっていた。
 だがなぜか港についた途端、ペンリックは間諜と名指しされ、拘束されたうえ投獄されてしまう。重傷を負って壺牢に投げ込まれたペンリックだったが、自らの内に棲む庶子神の魔デズデモーナの助けで傷を治し、なんとか脱出に成功する。そしてアドリア大公の手紙をとどけるべく、なんとかアリセディア将軍をたずねあてたものの、将軍は既に捕らえられ、両目をつぶされていた。
 最初から全てが将軍を狙った政敵による罠だったのだ。責任を感じたペンリックは医師と偽り、将軍の手当を買ってでる。だが再び将軍のもとに敵の手が……。
 アリセディア将軍と妹のニキスを連れたペンリックの脱出の旅が始まる。

「リムノス島の虜囚」
 リムノス島にある修道院に囚われたニキスの母イドレネを救出せよ。ニキスに頼み込まれたペンリックは、ニキスと共にアデリスの婚約者というセドニアの貴族令嬢をを頼るが……。

 この巻では、残念ながら1巻で活躍した父神神殿の上級捜査官オズウィルとウィールドの巫師インクリスなどの面々は出てきませんが、今回登場するセドニアの将軍アリセディアとニキスの兄妹もとても魅力的です。

『魔術師ペンリック』

「ペンリックと魔」
 ペンリック・キン・ジュラルド十九歳、連州の貴族ジュラルド一族の末っ子だ。領守である兄が決めた婚約者である、裕福なチーズ商人の娘との婚約式のために町へ行く途中、病で倒れている老女の最期を看取ったのが、すべての始まりだった。亡くなった神殿魔術師の老女ルチアが持っていた庶子神の魔が、あろうことかペンリックに飛び移ってしまったのだ。おかげで婚約は破棄され、ペンリックは10人の人間(しかも女性ばかり)とライオンと馬を経てきた年古りた魔を自分の内に棲まわせる羽目になってしまう。ペンリックは変人ぶりを発揮し、魔にデズデモーナと名前をつける(普通は魔に名前などつけない)。魔はすべて庶子神に属する。魔を受け継いだ魔を制御し、庶子神神殿の神殿魔術師になるべく訓練をはじめるが……

「ペンリックと巫師」
 ペンリックのもとに、東部の父神教団から上級捜査官オズウィルが派遣されてきた。〈五神教〉の神殿魔術とは異なる、ウィールドの巫師がからむ奇妙な殺人事件の捜査への協力を仰ぎたいというのだ。すっかり退屈していた魔デズデモーナを身の棲まわせるペンリックは、オズウィルと共に捜査に出発する。

「ペンリックと狐」
 釣りにいそしんでいたペンリックとオズウィルは、近くで起きた魔術師の女性の殺人事件の捜査を命じられる。殺人の目的は? 殺された魔術師に憑いていた魔はどこへいったのか? ペンリックは死体が発見された現場の近くで、赤っぽい狐の毛がついた矢を発見した。

魔術師ペンリック (創元推理文庫)
ロイス・マクマスター・ビジョルド
東京創元社
2018-09-28


魔術師ペンリックの使命 (創元推理文庫)
ロイス・マクマスター・ビジョルド
東京創元社
2021-06-14