一風変わった趣向で愉(たの)しませてくれる、堀内公太郎『タイトルはそこにある』(東京創元社 1800円+税)は、担当編集者から毎回出される「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ登場人物は3人で」や「会話文のみで書かれた作品(地の文はすべて削除)登場人物は2人で」といった難題に応える形で紡(つむ)がれた5編からなる作品集だ。


どれも優れた戯曲のごとき完成度で(この点についても、ある狙いが……)、著者の苦労に頭が下がる。「3人の女性たちによる独白リレー(できれば3人全員を主人公に)出番を終えた語り手はふたたび語ってはならない」というこれまた難しいお題を、まるでパズルのピースがピタリと気持ちよくはまるように美しくクリアしてみせた第4話「雪月花の女たち」が白眉(はくび)だが、この一冊には収録作だけではない、さらなるお愉しみが用意されている。

それは各話の成立過程を詳(つまび)らかにし、担当編集者による註が加えられた「あとがき」だ。著者のみならず担当編集者の言葉も交えて饒舌(じょうぜつ)に語られる舞台裏は、作品の輝きを倍増させ(ミステリ作家志望者は必読!)、著者の悪戦苦闘と敏腕編集者の手綱(たづな)さばきも含めて「作品の読みどころ」になっている。

思わず「おお!」と声を上げてしまった、柄刀一『ミダスの河 名探偵・浅見光彦vs.天才・天地龍之介(あまちりゅうのすけ)』(祥伝社 1900円+税)は、あの国民的名探偵とIQ190の天才探偵が競演する「内田康夫財団公認」作品だ。


甲府(こうふ)で末梢(まっしょう)血幹細胞移植の取材を進めていたルポライターの浅見光彦は、ドナーである上園望美が誘拐された事件に関わることに。じつは望美は、「甲斐(かい)のミダス王」の異名を持つ名家の当主――小津野陵(おづのりょう)の隠し子であり、小津野家の秘密を暴くよう光彦に要求してくる。同じころ、秋田にある生涯学習施設の所長を務める天地龍之介は、甲州(こうしゅう)市の川で行なわれる砂金採りのイベントに参加。そこで車の衝突事故を目撃して駆けつけると、なぜか誰もいない運転席が黄金色に染まっていた……。

本作は〈天才・龍之介がゆく!〉シリーズとしても約8年ぶりとなるひさびさの新作だ。前作『人質ゲーム、オセロ式』で、シリーズのモチーフであるパズル性にゲーム要素を融合させ、ひとつの到達点を迎えた感があったので、名探偵競演、誘拐事件、不可能犯罪、戦国時代の埋蔵金など、じつに盛りだくさんな内容でこうして復活したことをまずは寿(ことほ)ぎたい。

今回のような企画は「華の持たせ方」がなにより重要になってくるが、すでに御手洗潔(みたらいきよし)とホームズのパスティーシュで高い評価を獲得している著者である。その細やかで心憎い演出は、双方の名探偵のファンも必ずや満足させるはずだ。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。