かつて、頭のイカレた老神父がホッブズ家の少年を神のいたずらと評したことがある。戦士の姿をした大天使であり、肉欲を抱く女たちを呼ぶ標識だと。
 そう、天使だ。
 彼に翼があればよかったのに。

* * * * *

 17歳の兄と15歳の弟。2人は森へ行き、戻ってきたのは兄ひとりだった……。

 母亡きあと、母代わりになって育ててくれた家政婦ハンナに乞われ、20年ぶりに帰郷したオーレンを迎えたのは、過去を再現するかのように、偏執的に保たれた懐かしのわが家。
 死んだ愛犬は剥製にされ、暖炉の前に寝そべり、夜明けには何者かが玄関先に、死んだ弟の骨をひとつひとつ置いてゆく。
 いなくなったときのままに保存された弟ジョシュの寝室の中央には真新しい棺が鎮座し、還ってきた骨が置かれていた……。
 一見変わりなく元気そうな父は、眠りのなかで歩き、死んだ母と会話している。
 これだけの年月を経て、いったい故郷に何が起きているのか? 
 半ば強制的に保安官の捜査に協力させられたオーレンの前に、町の人々の秘められた顔が、次第に明らかになってゆく。

 迫力のストーリーテリングと卓越した人物造形。著者渾身の大作。

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 本書『愛おしい骨』は現時点でのオコンネルの集大成であるとともに、現代ミステリの大いなる収穫であり、さらに言えば読む者の心の琴線に触れる〈狂おしいまでの愛の物語〉でもある。(解説 川出正樹より)

(2010年9月7日)


 


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