秋といえば食欲の秋。そんなあなたにぴったりの傑作ミステリをお届けします。

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 夏の終わりの夜明け前、サンドニの遺伝子組み換え作物の試験場が放火された。村でただひとりの警官にして警察署長のブルーノは、国家警察の刑事に協力し住人への聞き込みを行う。そんな折、村の青年がワイン農場の大きなワイン桶の中で死んでいるのが発見された。事故か? 殺人か? 放火との繋がりは? 心やさしき警察署長は、村の平穏を取り戻すため不可解な事件に挑む!

 この作品は2011年の『緋色の十字章』に続く、〈警察署長ブルーノ〉シリーズの第二弾です。とはいえ事件自体は独立しておりますので、この巻から読んでも大丈夫です!

  本書の舞台であるサンドニは、人口3000人、フランス南西部ドルドーニュ県の小さな村です。名物はフォアグラ、トリュフ、胡桃(くるみ)。町といえる住宅地もあるものの、ほとんど緑ばかり、ぽつぽつと家が建っているようなのどかな土地です。

 主人公のブルーノは、サンドニでただひとりの警官にして警察署長。愛犬ジジと暮らす39歳で、仲間たちとテニスや料理を楽しみ、ときに庭づくりに精を出す優雅な独身生活を送っています。つねに村人たちのことを考え、村長ほか村の重鎮にも信頼の篤い、頼れる署長さんです。サンドニに起こった不可解な事件を、ブルーノが村人や国家警察の刑事たちとともに解決していく……というのが、このシリーズのスタンスです。

  著者のマーティン・ウォーカーは、イギリスの有名な新聞「ガーディアン」紙に25年間勤めたベテランジャーナリストです。歴史書やノンフィクションを刊行しています。何年も前から本書の舞台であるドルドーニュ県に家を持ち、テニス仲間には地元の警察署長もいるそうです。そのような経験や情報を生かし、この〈警察署長ブルーノ〉シリーズを生み出しました。本書でも環境問題などが取り上げられ、読み応えのある作品になっています。

『緋色の十字章』では、トリュフ入りオムレツ、山羊のチーズ、手作りジャム、ステーキ&キドニー・パイなどなど、おいしそうな料理が山ほど登場していました。いわゆるコージー・ミステリに匹敵するくらい、お料理をめぐる場面が満載のシリーズですが、今回はワイン好きの方は必読です!! ワインの知識はもちろん、その魅力を伝えるシーンがたくさん出てきます。特に、ブルーノと村人たちが葡萄の収穫を行い、大きな桶のなかに入って葡萄踏みをするシーンはとても楽しげで、ほんわかした気分になります。ハートフルな読み心地のミステリを探しているみなさん、ぜひ手にとってみてください。

『葡萄色の死』は2012年11月29日ごろ発売です。ブルーノ署長と仲間たちをよろしくお願いいたします!

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本書はあなたにミステリを読む悦びを与えてくれるはずです。――ウォールストリート・ジャーナル
すばらしいミステリだ! ブルーノ署長がいるサンドニ村をもっと何度も訪れたい。――スターフェニックス紙

美しい風景、あたたかな登場人物たち、ロマンティックな恋愛、美食、ワイン、そして事件に隠された社会問題……本書にはたくさんの魅力が詰まっている。読むべし!――Shotsmag website

(2012年11月5日)


 

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