「あの川は本当に冷たかった」
死の直前にそう告げた大富豪。
彼の謎に包まれた過去を
“見えないものを見る”力を持つ男が探り出す。


冷たい川が呼ぶ(下)
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冷たい川が呼ぶ(上)
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 9月に入ったとはいえ、まだまだ残暑が厳しい今日この頃……この暑さはまだまだ続くかも!? そんなときにぴったりの傑作ミステリ『冷たい川が呼ぶ』をご紹介します!!

*あらすじ
“見えないはずのものが見える”能力を持つビデオ製作者のエリックは、93歳の大富豪、キャンベル・ブラッドフォードの生涯を探るビデオ製作を依頼される。手がかりはキャンベルが唯一手放さなかったプルート水という水と、「あの川は本当に冷たかった」というひと言だけ。彼の故郷に到着したエリックは、廃線を走る蒸気機関車に乗った山高帽の男が笑っている光景を幻視する。これには何の意味が?

* * *

『冷たい川が呼ぶ』は、弱冠22歳でデビューした“早熟の天才”、マイクル・コリータの6作目にあたるノンシリーズ作品です。あらすじでご紹介した通り、主人公のエリックは、ある場所で過去にあった出来事や未来予知など“見えないはずのものが見える”能力を持つビデオ製作者です。そんな彼は、仕事で関わった女性から謎に包まれた過去を持つ大富豪の生涯を探るビデオ製作を依頼され、その大富豪――キャンベル・ブラッドフォードの故郷であるフレンチ・リックへと赴きます。

 このフレンチ・リックというところは、アメリカのインディアナ州にあります。と、言われても簡単に場所はわからないのではと思いますが、シカゴの近隣、五大湖の下あたりを思い浮かべてください。そこに超豪華な二つのホテルがあるのです! 特に、本書の舞台になっている〈ウェスト・ベイデン・スプリングス・ホテル〉、ものすっっごい豪華なんですよ! カジノ、スパはもちろん、イギリスの水晶宮よりも多くのガラスを使用した巨大なドームがあります。このホテルは近年になって改修されたもので、著者は子供のころに廃墟同然だったかつての姿を見ているそうです。そしてその記憶をもとに物語を思いつき、ホテルや町の歴史を調べ上げて幻視や超常現象を取り入れた一大ミステリ巨編を生み出しました。

 キャンベルが死の直前に告げた「あの川は本当に冷たかった」というひと言の謎を解く手がかりが、壜の底に悪魔が描かれた「プルート水」です。エリックは、好奇心からこの水を飲んでしまい、水がもたらしたさまざまな幻視に苦しめられることになります。廃線を走る蒸気機関車、不気味な山高帽を被った男、ヴァイオリンを弾く少年、そして……殺人。超常現象をなんとも不気味に描いており、冷たい手で背中をなでられるような、ぞっとする気分になることも……。

 著者のマイクル・コリータは22歳のときにデビュー作のハードボイルド小説『さよならを告げた夜』を上梓し、いきなりMWAエドガー賞処女長篇賞にノミネートされます。その後、4作目にあたるサスペンス『夜を希う』では2009年「このミステリーがすごい!」1位を獲得したT・R・スミス『チャイルド44』ら強敵を破り、LAタイムズ最優秀ミステリ賞を受賞しました。そのほか、刊行する作品のほとんどがCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガーやバリー賞、スリラー・アワード、シェイマス賞などさまざまなミステリ賞にノミネートされています。まさに“早熟の天才”! 彼がどういう作家なのかは、本書の解説で吉野仁さんが詳しく紹介してくださいました。作品の魅力をあますところなく語っていただいた、すばらしい解説です!

 『冷たい川が呼ぶ』は9月27日ごろ発売です。コラージュ作家の引地渉さんによる、本当に冷たそうな迫力満点のカバーが目印です。どうぞお楽しみに!!

(2012年9月5日)




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