この声が届く先
書籍の詳細を見る
 「リディアを誘拐した――」

 晩秋の朝、私立探偵ビル・スミスにかかってきた電話が告げたのは、シンプルかつ残酷な事実でした。正体不明の犯人と、リディアの生命を賭けた“ゲーム”をすることになったビル。フィールドとなるのはニューヨークの街、与えられた猶予は12時間。犯人が出す謎めいたヒントを手がかりに、ビルは相棒を救出することができるのか――

 このように、S・J・ローザンの〈リディア・チン&ビル・スミス〉シリーズ10作目となる『この声が届く先』は、かつてない緊迫した展開から始まります。
 アメリカンフットボール至上主義が支配する街での事件とビルの過去が描かれた第8作『冬そして夜』(MWA受賞作)、上海とニューヨークをまたにかけた宝石盗難事件と六十年あまりにおよぶ数奇な歴史に翻弄される人々を描いた第9作『シャンハイ・ムーン』。質量ともに堂々たる大作であるこの二長編に続いてローザンが送り出すのは、ニューヨークの街のみを舞台にし、たったひとつの事件――リディア誘拐――を追うビルと仲間の姿を描いた、サスペンスフルな物語です。
 前2作とはがらりと趣向を変えてきた、ローザンの振り幅の広さには驚かされるばかりですが、既刊に共通して見られる、ビルとリディアの強固な結びつきはいささかも損なわれていません。むしろ、リディアが囚われの身であることで、いつも以上にふたりの絆が強調されている場面もあります。シリーズ読者ならば、必見の内容といえるでしょう。

 もちろん、本書が初めてのローザン体験になるというかたも、裏切られることはないはずです。主役ふたりはむろんのこと、特に今回は、リディアの親戚ライナスや親友のメアリー刑事など、過去に顔を出した脇役が随所で活躍しますので、必ずやさかのぼってほかの作品も手にとってみたくなるはずです。
 S・J・ローザン『この声が届く先』は、6月28日発売予定です。

* * *

リディアを誘拐した――晩秋の朝、私立探偵ビルは突然の電話でそう告げられる。相棒の命を救うため、彼は正体不明の犯人に指示されるまま、手がかりを求めニューヨークじゅうを奔走する。与えられた猶予はわずか十二時間。犯人により殺人事件の容疑者に仕立てあげられたビルは、警察と売春組織に追われながらも、頼れる仲間の力を借りて、リディアの居場所を突き止めようとする。シリーズ史上最も緊迫した展開の連続で送る第十作。

(2012年6月5日)




【2009年3月以前の「本の話題」はこちらからご覧ください】

本格ミステリの専門出版社|東京創元社