お待たせしました。ヒューゴー賞・星雲賞を受賞した『時間封鎖』(2008年)、『無限記憶』(2009年)につづく三部作の完結編、『連環宇宙』の登場です。

 物語の最初の舞台となるのは、『時間封鎖』と『無限記憶』の間にあたる時代。謎の超越存在“仮定体”がもたらした〈スピン〉後の混乱も収まり、地球人類は新世界に入植して繁栄を謳歌しています。そんなある日、テキサス州立医療保護センターに勤める主人公の精神科医サンドラの元に連れてこられた謎の少年。彼が持っていたノートには、1万年後の未来に復活した人々の手記が綴られていました。
 少年自身が書いたとはとても思えない手記の内容が、彼を連れてきた巡査ボースが現在追っている事件の手がかりになると知らされたサンドラは、ボースと協力してノートと少年の謎を調べようとします。しかしその過程で、2人は不自然な妨害を受けるようになります。
 一方、手記の中では、12個の惑星をアーチで連結した〈連環世界〉を旅する移動都市が荒廃した地球をめざし、“仮定体”の謎を解き明かそうとしていました――。

 時間のスピードが1億分の1に、という読者の度肝を抜くビッグアイデアを中心に展開した『時間封鎖』から、第2作『無限記憶』では緊密な人間ドラマという側面をじっくり書き込む方向に向かいましたが、本作ではふたたび、シリーズを締めくくるにふさわしい壮大なスケールで楽しませてくれます。詳しくは読んでのおたのしみですが、本作はウィルスンのストーリーテラーとしての才能と現代ハードSF作家としての持ち味の両方を、ぞんぶんに堪能できる内容になっています。

 ちなみに原書の刊行は第1作が2005年、第2作が2007年、そして本作が2011年。日本では原書刊行から1年空けずに刊行することができました。本作についてはシリーズの基本設定さえ押さえておけばじゅうぶん楽しめますが、この機会にもういちど、三部作を読み返してみるのもいかがでしょうか(じつは『無限記憶』と本書のあいだには、大ネタを支える部分で細かいしかけもあったり……)。
(2012年5月8日)




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