レックス・スタウトから、やや遅れて登場し、第二次大戦をはさんでアメリカで活躍したのが、クレイグ・ライスです。スタウトのネロ・ウルフものが、ワトソン役である助手のアーチーの一人称であったのに対し、ライスの酔いどれ弁護士ジョン・J・マローンのシリーズは三人称の小説ですが、このふたつのシリーズには似通ったところが多々あります。ウルフのミステリが、ウルフと彼のお馴染みのチームの魅力で読ませるように、マローンのミステリも、天使のジョー(とその一族)やジェイクとヘレンのジャスタス夫妻といった常連たちの魅力が、面白さのかなりの部分を担っています。ウルフにクレイマー警部がいるように、マローンにもフォン・フラナガン警部がいます。そういうお馴染みのメンバーによる掛け合いの楽しさやユーモアが特徴なのも、共通したところでしょう。ストーリイが次々に起きる事件とともに、なんらかのアクションをともないながら、スピーディに進行していくところも似ています。ディテクションの小説ではあっても、解決の推理に魅力のあるものが少ないところもそっくりです。ハードボイルドに分類されることがある――近年は、そうした例はあまり見かけませんが、かつてはしばしばありました――のも同じです。E・S・ガードナーを含めた、この三人は、ハードボイルドミステリの洗礼を受けたのちの、アメリカのパズルストーリイと見られることもありました。ガードナーは両者の中間とか混淆とされることもありましたからね。そのほかに、長編主体で、短編も書かれてはいるけれど、中編や長めの短編が多いというのも同じですが、これは、ディテクションの小説自体が、そういう流れにあったので、スタウトとライスの共通点とはいえないかもしれません。
 クレイグ・ライスには根強いファンがいます。かつての小泉喜美子さんを筆頭に、短編集『マローン殺し』に解説を寄せている近藤史恵さんの狂いっぷりも微笑ましい。けれど、同時に、多数のファンを持つことは、ついに日本ではなかったようでした。ライスの魅力は、ユーモアとか都会的なしゃれたセンスといった説明をされて、そういった要素は、日本においては多数派を形成しないと理解されているのかもしれません。ただ、そうした特徴の正体をもう少しつっこんで考えてみることは必要でしょう。



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