「面白かったです!! ものすごい勢いで一気読みしてしまいました!」

『三つの秘文字』の翻訳原稿をはじめて通しで読み終わったあと、翻訳を担当された法村里絵先生に電話をかけ、自分でも驚くほど興奮しながら作品の感想を伝えました。そして「ここが好きです!」「このシーンがしみじみしますね~」などと語り合うこと約30分。それから長期間の編集作業を終え、ようやく読者の皆さんにあのときの興奮をお伝えできるようになりました。

 『三つの秘文字』は、英国出身の女性作家、S・J・ボルトンのデビュー作です。処女作にもかかわらず、いきなりMWA(アメリカ探偵作家クラブ)のメアリ・ヒギンズ・クラーク賞にノミネートされ、英米で発行部数25万部、13か国で翻訳刊行と好評を博します。惜しくも受賞を逃しますが、2作目のAwakeningで同賞を受賞し、さらに3作目のBlood Harvestとあわせて3年連続ノミネートという快挙を果たします。この作品はCWA(英国推理作家協会)の最優秀長篇賞(ゴールド・ダガー)など多数の賞の候補となり、新進気鋭の作家として英米で高い評価を受けています。

 さて、そんな大ベストセラーとなった本作の舞台は、英国(スコットランド)のシェトランド諸島。平均気温が10度以上の月が3か月以下という冷涼な気候の地には、謎めいた古代遺跡や嵐に削られた断崖、海に突き出た巨礫(きょれき)などが点在しています。そして島のあちこちで見られるルーン文字……。ミステリの舞台にはぴったりだと言えるのではないでしょうか。

 本作の主人公は、夫の生まれ故郷に引っ越してきた産科医のトーラです。彼女は、愛馬の埋葬中に自宅の裏庭で女性の惨殺死体を掘りあててしまいます。心臓がえぐられ、背中に三つのルーン文字が刻まれていた遺体は、出産後間もない身だったことを語っていました。そして調査の結果、被害者の身元が判明します。しかし彼女は、なぜか島の公式記録では遺体から推定される死亡年月の一年前に死んだことになっていました……。

 上記が主なあらすじですが、魅力的な謎が息をつくひまもないほど、つぎつぎと提示されます。頻繁に場面が切り替わり、スピーディーに展開されていくのでページをめくる手が止まりません。閉鎖的な土地や職場になじめず苦悩する女性の心理描写も巧みで、高い筆力が感じられます。また、この作品が英米で高く評価された理由のひとつとして、シェトランドの民族伝承と犯罪を巧みに融合している点があげられます。ある伝説と奇怪な殺人事件が結びついたとき……想像を絶する、異様な真相が待ち受けています。

 『三つの秘文字』は2011年9月21日頃発売です。謎と伝説に彩られた本作を、どうぞご堪能ください!

(2011年9月5日)

 

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