渡辺温(わたなべおん) 1902年8月26日―1930年2月10日

探偵小説界の長老・渡辺啓助の実弟でもある温は、兄の影響からか、幼いころより創作に親しみ、プラトン社の懸賞(選考委員は谷崎潤一郎と小山内薫)に投じた「影」の一等入選を機に、映画雑誌や「探偵趣味」などに随筆・小説を寄せ始めます。「新青年」に掲載された「可哀相な姉」や、鮮烈な印象を残すショート・ショート「兵隊の死」などは、アンソロジーに採られることも多く、現在でも高い人気を博しています。

小説の執筆に励みながら、横溝正史の右腕として「新青年」の編集を勤めていた温は、原稿依頼に赴いた谷崎潤一郎宅からの帰途に乗っていたタクシーが貨物列車と衝突事故を起こし、27歳の若さで逝去します。ちなみに、温との約束を守る形で、のちに谷崎が「新青年」に連載したのが、かの異色伝奇小説『武州公秘話』でした。

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本全集では、小説、脚本、映画随筆、翻訳など、多彩な才が発揮された各分野の作品を執筆年代順に網羅し、文庫初となる全集として一冊に集成しました。憂愁とノスタルジイが溢れる、影絵のごとき物語世界をご堪能ください。




■収録作品(印は単行本初収録作品)
小説

少女
象牙の牌

赤い煙突
父を失う話

可哀相な姉
イワンとイワンの兄
シルクハット
風船美人
勝敗
ああ華族様だよと私は嘘を吐くのであった
遺書について
アンドロギュノスの裔
花嫁の訂正
或る母の話
男爵令嬢ストリートガール
浪漫趣味者として
巷説「街の天使」
悲しきピストル
指環
モダン夫婦抄
モダン夫婦抄 赤いレイン・コートの巻
四月馬鹿
夏の夜語

掌篇
春ノ夜ノ海辺
夕の馬車
小さな聖人達に与う
淋しく生きて
若き兵士
森のニムラ

兵隊の死
子供を泣かしたお巡りさん

脚本
氷れる花嫁
どぶ鼠

縛られた夫

翻訳・翻案
新薬加速素
絵姿
外科医の傑作
王様の耳は馬の耳
島の娘
矮人の指輪

映画関係の随筆ほか
想出すイルジオン
或る風景映画の話
オング君の説
なんせんす・ぶっく
『疑問の黒枠』撮影を見る
古都にて
関西撮影所訪問紀
アルペン嬢の話
続アルペエヌ嬢の話
兵士と女優
十年後の映画界
十年後の十字街
各種アンケート

解説 浜田雄介
渡辺温年譜
初出一覧


(2011年8月5日)

 

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