祖母危篤の連絡を受けて、ひさびさに北関東のとある街を訪れた瑞輝。半ば親戚連中に押しつけられるかたちで瑞輝は、祖母の梅が大家を務めている外国人向けアパート、通称「ランタン楼」の臨時大家となることを了承する。
幼い頃、梅に連れられてランタン楼の部屋に訪ねたとき、各国からの多様でこれまで見たこともないようなおみやげや、地球儀で彼らの出身国をながめることが好きだった瑞輝。
だが一方で、暴力沙汰など数々の住人とのトラブルの噂も聞いていた瑞輝は戦々恐々でもあった。
おそるおそる訪ねたランタン楼だが、最初に出会ったのが日系ベトナム人の美女。彼女が巻き込まれたトラブルに接するうちに、彼らの境遇と自分自身を重ね合わせていく――。
持ちなおしたかに思えた祖母も亡くなり、ランタン楼をつづけていくべきかどうか悩む瑞輝と家族たち。しかし、住人たちひとりひとりが抱えている問題を周囲の協力も得て解決しつつ、異郷の地で暮らす彼らの生身の姿を知り、ランタン楼を守っていくことを決意するのだった。

ランタン楼のある北関東は、世界的な不況の影響で若干数は減ったかもしれませんが、ブラジルをはじめとした中南米からやって来た労働者が多い地域です。私自身も、著者の吉永さんとの打ち合わせの帰りの電車の中で、ペルーから来た青年と立ち話をしたことがあります。また街行く人々を観察すると、外国人の姿が予想以上に自然に日本の風景に馴染んでいる様子が伺えます。
そうした日常の風景を描いていくのも、今回の『アンジャーネ』のテーマの一つでした。著者の優しいまなざしを感じながら、お読みいただけますと幸いです。

また、タイトルの「アンジャーネ」は、群馬以北を中心に使われる方言の「あんじゃあねぇ」から取りました。大丈夫という意味です。不安を抱えている方の多い現代社会に、「大丈夫、大丈夫」という応援歌になればと思っております。
(2011年2月7日)

 

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