まず訂正から始めます。前回のシャーリイ・ジャクスンについての記述で「1966年にThe Magic of Shirley Jacksonという短編集が編まれ」と書きましたが、この本は、短編集というよりは、オムニバスないしは傑作選といった中身でした。短編の傑作選プラス長編のThe Bird's Nest『野蛮人との生活』『悪魔は育ちざかり』を収めたものでした。詳しくは見ていませんが、後二者は抄録のようです。
 この連載も、次回で8年目に入ります。予定では、とうに連載が終わっている回数なのですが、ご覧のとおり、まだ道半ばです。前回で、二十世紀の怪奇小説の流れのうち、ミステリと重なり合ったり、影響しあった部分については一段落しました。続いて、第二次大戦後のアメリカを席巻した、ハードボイルドミステリの流行と警察小説への展開を、短編ミステリに即して点検しながら、戦後のミステリ雑誌が隆盛に到る過程について書いていくことになります。
 しかし、そこに入る前に、連載2~3回を目途にして、これまでに書いてきたことで補う必要があることを、追加しておくことにしましょう。なにしろ、毎月の連載では、読み落とした作品もあれば、連載が進行している間に、新たに邦訳されたりもしています。それらを補遺として拾っておくことも必要でしょう。
 ついでに、今後の連載のおおまかな見取り図を描いておくことにします。
 補遺ののちは、上に書いたとおり、おもにペイパーバック書き下ろしの影響で、長編ミステリに顕著な、ハードボイルドミステリの流行と、その後の警察小説への移行を背景として、ヒッチコックマガジンを先頭に、EQMMの後続雑誌が生まれることで到来した、ミステリ雑誌の時代について書きます。続いて、ほぼ同時期に、やはり雑誌媒体が最盛期を迎えた、短編ミステリのもっとも重要な隣接ジャンルである、短編SFについて触れます。ここは、さすがに全貌は無理なので、あくまでも短編ミステリ史の一部として、そこから眺めたものになります。
 その後、MWA賞短編賞を中心にして、短編ミステリの黄金時代である60年代の作品群を読みます。このときに、陰の流れとして、イギリスの無視できない作家群――グレアム・グリーンやナイジェル・ニールといった人たちや、アメリカ人ですが、ヨーロッパでの評価が高かったパトリシア・ハイスミスなど――をまとめて読みかえす予定です。そして、黄金時代の掉尾を飾るのは、EQMMによるCWAコンテストです。それにはふたつの理由があります。ひとつは、短編ミステリの最高峰、クリスチアナ・ブランドの「ジェミニイ・クリケット事件」が、そこから生まれたこと。もうひとつは、このころからイギリスの短編ミステリの巻き返しが始まるからです。すなわち、雑誌が育たなかったことを埋めるかのように、頭角をあらわした、ウィンターズクライムを代表とする、アンソロジー短編集の存在です。70年代のMWA賞の質的な低下――しかし、ルース・レンデルのような重要なクライムストーリイの書き手が、何人か登場します――とすれ違うように、アンソロジーの時代が始まるという見立てです。70年代には『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』をきっかけにした復古ブームが起きましたが、そのことは簡単に触れて、その後は、軽く概観する感じになるでしょう。



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