ここだけのあとがき

2010.04.05

山口芳宏『100人館の殺人』[2010年4月]

ここだけのあとがき
容疑者はなんと100人!? 鮎川賞作家が贈る、驚愕の長編ミステリ
(10年3月刊『100人館の殺人』)

山口芳宏 yoshihiro YAMAGUCHI

 

 『100人館の殺人』は一見軽い内容のユーモア探偵小説ですが、生まれるまではかなりの紆余曲折がありました。

●こぼれ話その1
 時々ぼくは雑談で、知り合いに小説のネタを話すことがあるのですが、多くの人にいちばん反応がよかったのが、この『100人館の殺人』でした。「名探偵が意気盛んに館に行ったら、容疑者が100人いて途方にくれた」というシンプルなネタに、インパクトがあったのでしょうか。ぼくのような新人にとって、タイトルや筋のインパクトは非常に重要です。じゃないと、手を取ってもらえませんからね。
 担当編集さんに話しても反応がよかったので、これを大切な第3作目として書くことにしました。滑り出しは順調です。
 ちなみにネタ帳には『1000人館の殺人』と書いてあったのですが、さすがに1000人はたいへんそうなのでやめました。

●こぼれ話その2
 最初は、容疑者1人あたり1~2ページを費やして、それを100人分――そして最後に解決するという筋で行こうと思っていました。ところが途中まで書いてみたものの、どうもうまくいかない。筋としては成り立つのですが、読者にとってどうしても平坦で退屈な展開になってしまうのです。そりゃ、どんなに個性的な容疑者を配置しても、100人となると飽きてきますよね。
 こうなることは最初からわかっていたのですが――それでも20人ごとに劇的な展開変化があればなんとかなるかな――と考えていました。しかしどんなに起伏を大きくしても、やっぱり退屈。「延々と聞き取り」となると、サスペンス色、ドキドキ感が出ないのです。
(秘術を尽くせば、60人くらいまでならなんとかなりそうでしたが)
 さあ、どうするか。ここで考えに考えて、結局いまの形にしました。つまり、最終的には「起伏があって、おもしろくて、ドキドキすればいいだろう」という原点にもどったのです。――と書くと簡単ですが、ここまでかなりの労力が必要となりました。

●こぼれ話その3
 実際の執筆は、「100人の容疑者というシチュエーション」「不可解な物理的殺人トリック」の2つのネタをベースに、ユーモアサスペンスの衣を着せることにしました。ユーモアサスペンスというと、なんといっても赤川次郎さん、年代を超えて読者に愛されている巨匠です。
(一般人に「どの作家が好きですか」とアンケートを取ると、年代問わず上位に入るという巨人です。現在の10代にも根強い人気らしい)
 もちろんぼくもむかしからの大ファン。しかし、そのまま赤川さんの作風を真似そうとしても絶対に無理ですし、単なる劣化コピーになってしまいます。
 そこでぼくは、海外ドラマを研究することにしました。『LOST』『24』『ギャラクティカ』――どれも抜群におもしろい。共通するのは「少々無理でも劇的な展開」「部分的に過激」ということでした。
 そうして研究・検討の結果、「少々過激なユーモアサスペンス(伝統的なユーモアサスペンスと比べて)」を目指すことにしました。それが現代的で、読者にとってもいいと思ったのです。
 過激にすれば一部読者からの反発も予想されましたが――それはもう仕方ないと割り切ることにしました。思えば、赤川次郎さんの作風も、ぼくが読み始めた27年前の時点ではずいぶん過激だった印象があります。ユーモア風味の物語なのに「えっ、この人が死ぬの?」「この人が犯人?」というふうに驚き、それがおもしろくて刺激的でした。
 以上のことを念頭に置きつつ、具体的には本格ミステリファンも大好きな(ぼくも大好きな)ネタもどんどん投入し、詰め込みました。もちろん身もだえしながら、です。

              *   *   *

 というふうに、いままで書いた中では一番苦労した小説でした。
 簡単にいうと、「軽く読めてワクワクする娯楽小説」「読んでいる数時間が最高に楽しいエンタテインメント」を目指しました。楽しんで綺麗に忘れられる探偵小説です。ミステリファンにとってどうかは予想もつきませんが――現在の自分としては、最高の娯楽探偵小説に仕上げたつもりです!

 20年後くらいに「そういえば、むかしそんな小説があったなあ。楽しかった。内容は覚えてないけど』となるのが理想です。「こんな小説あったよ!」と友人に自慢できるような小説ですので、よろしくお願いします。

(2010年4月)

山口芳宏(やまぐち・よしひろ)
1973年三重県生まれ。横浜国立大学卒。ゲームプランナー、シナリオライターとして活躍後、2007年『雲上都市の大冒険』で第17回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。著作はほかに、『豪華客船エリス号の大冒険』『妖精島の殺人 上下』『学園島の殺人』がある。


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