ここだけのあとがき

2008.01.07

津原泰水『ルピナス探偵団の憂愁』[2008年1月]

『ルピナス探偵団の憂愁』では、
まず探偵団の解散を書きました。

津原泰水だからこそ書き得た、少年少女たちの「探偵」物語。
(07年12月刊『ルピナス探偵団の憂愁』)

津原泰水 yasumi TSUHARA

 

 自分のウェブサイトを確認せねばならないほど、風化したお話にて恐縮。《ルピナス探偵団》シリーズの第一作『うふふ・ルピナス探偵団』が出版されたのは1994年、いまから十三年も昔のことです。「・」の部分(出版用語でナカグロといいます)には本来ハートマークが付いており、ちなみに僕はこのタイトルを付けた覚えがありません。「いつの間にかタイトルが付いていた」なんていうのは、当時の少女小説でわりあい普通のことでした。

 もともと倒叙形式で書いた原稿でしたが、これも編集判断でプロローグが削られ、凡庸な――良く云えば「若年層にも分かりやすい」犯人当て小説として、世に出ました。
 中略。芳しくなかった売上げを挽回すべく、翌年、大胆に新本格風の物理トリックを導入した『ようこそ雪の館へ』をものした次第ですが、大胆すぎたようでシリーズは打ち切られました。こちらのタイトルは僕が付けたものです。内容と裏腹なあたり、自分らしくて今でも気に入っています。

 大筋には難があっても、キャラクター小説としては面白いものが、ジュヴナイルやライトノヴェルには多々あります。ルピナスもキャラクター造形に力を入れたお蔭でしょうか、自分自身も内容を忘れかけていた頃、「前二作に書き下ろしを加え一冊として出し直しませんか」とのありがたい打診を、原書房からたまわりました。そして「大女優の右手」を書きました。前二作なくしては成立しにくい物語ながら、ところどころ他人が書いたのかと思うほど、不思議な力を秘めた作品となりました。本当に他人が書いてくれるなら、この商売、どんなに楽でしょう。

 上記三篇を所収した『ルピナス探偵団の当惑』は、いま創元推理文庫に入っています。彩子、キリエ、摩耶、そして祀島くんは、僕に何度も印税を振り込んでくれます。彼らに甘え続けていては、身も心も駄目な人間になってしまうこと必至です。今でも駄目なのに、もっと堕落するかと思うと空恐ろしくなります。
 そこで新作『ルピナス探偵団の憂愁』では、まず探偵団の解散を書きました。時制的には「百合の木陰」が彼らの最後の事件で、お読みになれば分かることですが再結成はあり得ません。そこから「犬には歓迎されざる」「初めての密室」「慈悲の花園」と、彩子の記憶は、ルピナス学園の卒業式までの日々を遡っていきます。
 四人が迎えた卒業式で、『ルピナス探偵団の憂愁』は終わります。貫徹できるかどうか五分五分と感じながら始めたこの構成は、仕上げてみればなかなか素敵で、来春、さまざまな「卒業」を迎えられる皆さんに、ぜひ読んでいただきたいと思っています。

『憂愁』を始めるにあたり、担当者が「ぜひ『大女優の右手』レベルで」との麗しい歓迎ゲートを用意してくれました。くぐってみたら火の輪でした。華麗にくぐれましたかどうか、自身には判断できませんが、シリーズへの著者の愛着と、かつて無名のペイパーバックライターを支えてくれた若く勇敢な善意への、深い感謝を、どうかお察しください。

(2008年1月)

津原泰水(つはら・やすみ)
1964年広島県生まれ。青山学院大学卒業。89年より津原やすみ名義で少女小説を多数執筆。97年、現名義で『妖都』を発表、注目を集める。以後、ホラー、幻想小説、ミステリなど、多岐にわたる分野で活躍。2006年、高校の吹奏楽部を舞台にした『ブラバン』が話題となる。他の著作に『蘆屋家の崩壊』『少年トレチア』『綺譚集』『赤い竪琴』『ピカルディの薔薇』『ルピナス探偵団の当惑』などがある。

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