ここだけのあとがき

2011.06.06

高橋良平+東京創元社編集部編『東京創元社 文庫解説総目録』 総目録補完計画

ここだけの編者あとがき
文庫約2500点に内容紹介文を付した解説目録。
すべての読書人に贈る必携の書。
編者によるこぼれ話を掲載。
(10年12月刊『東京創元社 文庫解説総目録』)

高橋良平 ryohei TAKAHASHI

 

けーかほーこく・1 《創元ブックス》のこと

 某日、毎月恒例の駅前古本市をひやかしにゆく。初日にのぞいて少々収穫があったので、三日おいて二度目なり。ウォルシュの『暗い窓』、マッギヴァーン『悪徳警官』、アームストロング『悪の仮面』の三長篇を収録した《世界名作推理小説体系》第22巻が目にとまる。すでに一冊所蔵しているのだが、今回は箱帯、登場人物表付きの栞、月報(初見)などの付き物も完備とあっては、買わずばなるまい。五百円玉にて購入。

 さっそく喫茶店に入ってチェックする。「世界推理小説ベストテン」をメインにした8頁の月報をめくると、「ビッグニュースをお知らせします」の見出しをつけた囲み広告に目が引きつけられる。

〈ポオ、ドイル、チェスタトンを引き合いに出すまでもなく、ミステリーのダイゴ味は短編にあるといわれます。大好評の江戸川乱歩編「世界短編傑作集」(全五巻・創元推理文庫)に続いてお送りしますのは、

アメリカ探偵作家クラブ編
現代世界短編小説傑作集(全13巻)

このシリーズは世界最高の権威を持つアメリカ探偵作家クラブが中心になり、編纂したアンソロジーで、第一巻(6月刊)はE・A・ポオ賞に輝くスタンリー・エリン「ブレシントン法」を始め、クイーン、バウチャー、M・ギルバート、R・マクドナルド等、現代のミステリー界を背負う代表作家の珠玉短編十七編を収録、美しいカバー付き、コンパクトな新書版で毎月一冊ずつ刊行する予定です。体系、文庫の愛読者のみなさん、乞うご期待!〉

 『文庫解説総目録』の「資料編」中のインタビュウで、厚木淳さんは覚えてないと発言しているが、どうやら、これが《創元ブックス》の基本計画だったのは間違いない。第一回配本となるブラウンの『スポンサーから一言』とD・S・デイヴィス編の『アメリカ探偵作家クラブ傑作集1』の二冊が発売されたのが1961年7月、この《体系》は二か月前の5月刊、その間、新書企画が変化したのはなぜか、調査続行の必要あり。


私が知ってる二、三のこと・1 文庫内双書“ヒーロー・ペーパーバック”のこと

 四半世紀も前のある日、創元の戸川編集長から架電。「え~と、じつはですねえ、お願いがありまして……」と切り出された用件は、鏡明さん執筆記事の転載許諾だった。

 そのころ、地下鉄の東銀座駅を出て旧・東劇&松竹本社ビルの先、築地一丁目に電通本社があり、その裏の喫茶店で鏡さんと打ち合わせや原稿の受け渡しをしていた。同じ電通マンでも、上司だった石上三登志さんの行きつけの喫茶店は別だったし、佐久間さん(黒丸尚)はマガジンハウス近くの“花の木”をよく利用していたものだ。ともかく、なんの用事だったか覚えていないが、アレコレと喫茶店で長話をしているうち、鏡さんの話があまりに面白く、「それ、書きません?」と原稿依頼する結果に――。

 編集していたのはSFビジュアル誌を標榜する月刊誌だけど、SFファンが喜びそうならなんでもOKの面白主義を言い訳に、鏡さんのお宅に伺って借りた大量のペーパーバックのカバー画を配して構成したのが、「ヒーロー・ペーパーバックの異常宇宙」だった。なぜ“異常宇宙”と題したかといえば、当時、米ペーパーバック界で、シリーズ化を狙ってのアノ手コノ手、パルプ・マガジン時代にも匹敵する千差万別・玉石混交の冒険活劇小説が瀰漫していたからだ。さながら膨張しはじめたミクロコスモスだった。

 そんな状況を愉快に考察した鏡さんの原稿は改稿され、“ヒーロー・ペーパーバック”の元祖であるペンドルトンの《死刑執行人》シリーズの新刊『月曜日:還ってきた戦士』(1984年2月刊)の解説に使われた。その後、戸川さんとどんな話が交わされたかは知らないけれど、そこで触れられたシリーズから、鏡明セレクションで文庫内双書“ペーパーバック・ヒーローズ”が生まれたのは自明のこと。なお、『文庫解説総目録』の著者名索引の「※」(注記)に、双書である指摘が抜けている作品があるので、ご注意を。

 念のためラインナップを挙げておくと、ジェリー・エイハーンの《サバイバリスト》シリーズ『ヘルドラド』(1987年4月刊)、ジョン・ワイズマン&ブライアン・ボイヤーの《ヘッドハンターズ》シリーズ『麻薬都市』(同年6月刊)、テイバー・エヴァンズの西部劇シリーズ《ロングアーム》『連邦捜査官』(同年10月刊)、ジョン・カッターの《ザ・スペシャリスト》シリーズ『復讐者の怒り』(同年11月刊)、バリー・サドラーの《カスカ》シリーズ『永遠の傭兵』(88年1月刊)の五冊で完結(終了?)した。残念ながら続巻が出たのは《サバイバリスト》シリーズのみ、『殺戮のハイウェイ』『復讐の罠』『フロリダ半島壊滅』『最後の楽園』と刊行された。

 なお、「ヒーロー・ペーパーバックの異常宇宙」は、さらに改稿のうえ、『アメリカの夢の機械』(本の雑誌社刊行予定)の一章を構成することになっている。


私が知っている二、三のこと・2 “ナイトハンター”シリーズのこと

 その話が持ちあがったのは、“創元ノヴェルズ”の立ち上げ以前だったのは決まっているが、当時、SF部門の責任編集者で、クーンツの『人類狩り』やパイパーの『リトル・ファジー』の《甦れ、センス・オブ・ワンダー》ラインを企画したSさんとの電話でおしゃべり中だったと思う、彼に「“創元ノヴェルズ”用になにか面白そうな作品はない?」と尋かれ、「これなんかどうかな」と推薦したのが“ナイトハンター”シリーズだった。なぜ、そんな無名作家の活劇ホラーを勧めたのか。

 イギリスのブライトンに、今はもうなくなったアンドロメダ・ブックショップというSF・ファンタジー・ホラーの新旧図書、雑誌まで扱うメイルオーダー書店があり、隔月で送られてくるカタログとにらめっこしては、注文していた。我が家にあるバラード、ムアコック、ワトスンらお気に入り作家の原書は、ここのお世話になったものだ。ジョナサン・キャロルの名を知ったのも、このカタログで、新人作家も常にチェックしていたところ、ロバート・フォールコンという聞いたこともない作家のシリーズの紹介文を読んでビックリ。世界幻想文学大賞に輝く『ミサゴの森』(角川書店)が既訳だったかどうか、少なくともサンリオSF文庫で『アースウィンド』『リードワールド』の二長篇が紹介済みで、英国新鋭SF作家として認知されていた。そう、『文庫解説総目録』の著者名索引には記されていないが、ロバート・ホールドストックが別名義で書いていたのだ。好奇心をくすぐられ、さっそく注文して入手。そんな次第で、ペーパバックの裏表紙の内容紹介を読んだだけ、中身に目を通さずに推薦したのは問題だが、勘には自信がある(同じような塩梅でH書房のKさんに“ソーニャ・ブルー”シリーズを勧めたことも)。

 もちろん、中身をじっくり吟味して翻訳に踏みきり、このシリーズがけっこうな評判をよんだのは、すべて編集部と訳者の功績である。

(2011年6月6日)

高橋良平(たかはし・りょうへい)
1951年生まれ。出版史研究家、SF評論家、SF映画評論家、フリー編集者。主な仕事に『「科學小説」神髄』(野田昌宏著)『ジェームズ・キャメロンの映像力学』の編纂などがある。


本格ミステリ小説、本格SF小説の専門出版社|東京創元社
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