ここだけのあとがき
2010.03.05
梓崎優『叫びと祈り』[2010年3月]
〈旅人〉斉木の彷徨を描く驚異の連作推理。
超大型新人のデビュー!
(10年2月刊『叫びと祈り』)
梓崎優 you SHIZAKI
初めてミステリという世界に触れたのは、高校生のときでした。学校の文化祭で、推理劇を上演することになったのです。それも、私が脚本担当という。それまで文章といえば読書感想文しか書いたことのなかった私にとって、それは青天の霹靂としか言いようのない出来事でした。仕方がないので、三ヶ月で百冊のミステリを斜め読みし、物語の美味しいところをパズルピースのように拝借し、血と汗と涙でにじんで文字の読めない脚本を提出して怒られたのでした。そうして完成した演劇は文化祭当日、新たな悲劇を生むわけですが――ともかく、私とミステリとの出会いは、強制と苦行と悔恨に満ちた、お世辞にも幸福とは言いがたいものでした。
ところがどういう運の成せる業か、それから十年を経て、2008年に私は「砂漠を走る船の道」という短編で第五回ミステリーズ!新人賞を受賞させていただくことになりました。ミステリに苦しめられた自分が、まさかミステリの賞をいただけるとは思っていなかったからでしょうか。受賞の報をいただいたとき私は、きっと大誤解ミステリーズ……という最低の駄洒落を思いつき、思いついた自分に深く落ち込み、悲しみのあまり旅に出て編集者様に迷惑をかけ、編集者様の冷たい視線を振り切るために「違うのです、これは取材旅行だったのです」と受賞作すら世に出ていないのに暴言を吐き、言ったからにはあとに引けなくなり――
こうしてでき上がったのが『叫びと祈り』です。
『叫びと祈り』は五編の短編から成りますが、五編五様の場所が舞台となっています。「砂漠を走る船の道」はアフリカ大陸の砂漠を、「白い巨人」はスペイン中部の白い街を、というように。まるで世界周遊旅行のような様相ですが、一編を除いてモデルとなる場所はありません。例外は「白い巨人」で、こちらはスペインの「コンスエグラ」という実在の街をモデルにしています。理由はもちろん編集者様に旅が役に立ったことをアピールするためで、当初はコンスエグラそのものを舞台としていたのですが、諸般の事情から架空の舞台が必要になり、「レエンクエントロ」という街が生まれました。とはいえ、基本的に街の雰囲気は踏襲していますから、契約不履行にはあたりません。ただし、受賞後に放浪した国はスペインではなかった、という事実は伏せられています。
何の話でしたでしょうか。
コンスエグラは素晴らしいところです。もし拙作を読んで興味をもたれた方は、是非一度足を運ばれてみてください。きっと、舞台変更の理由と私の苦悩がご理解いただけると思います。
本作を上梓するに当たっては、たくさんの方にお世話になりました。拙い物語を世に出す機会を与えてくださった選考委員の皆様、東京創元社の皆様、家族、友人。特に担当編集者のK島様には、ここには書ききれないほどお世話になりました。心より謝辞を捧げます。ありがとうございました。
そして読者の皆様。もし本作を読んで、少しでも心を押されるような瞬間があれば、作者として、これほど幸せなことはありません。
■ 梓崎優(しざき・ゆう)
1983年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2008年、短編「砂漠を走る船の道」で第五回ミステリーズ!新人賞を受賞する。同作品は綾辻行人・有栖川有栖・辻真先三選考委員から激賞され、満場一致で受賞が決定した。受賞作を第一話に据え連作化した本書で単行本デビューを果たす。ミステリの技巧とロマンティックな文章力を併せ持つ、注目の大型新人。
推理小説の専門出版社|東京創元社
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