これは、あくまで幾つかのトリックや
ちょっとしたロジックを楽しんで頂くミステリです。

児童養護施設の群像劇から浮かび上がる「大きな物語」
第18回鮎川哲也賞受賞作
(08年10月刊『七つの海を照らす星』)

七河迦南 kanan NANAKAWA

 

 『七つの海を照らす星』という題名から、気宇壮大な冒険小説や叙情的なファンタジーを想像された方がいたらごめんなさい。お読み頂けばわかる通り、この物語は、児童養護施設で暮らす子どもたちと若い女性保育士が、初夏から冬にかけての間に次々と出会う不思議な出来事とその後の顛末を描いたささやかな連作短編集で、題はこの学園のある「七海」という架空の田舎町の名前からつけられたものです。

 七海学園の子たちは、経済的問題・虐待・家庭崩壊等々、皆それぞれに重い事情を抱えていますが、社会に何か問題提起をすることがこの小説の主旨ではありません。これは、あくまで幾つかのトリックやちょっとしたロジックを楽しんで頂くミステリとして書かれたものです。また関連する法律や制度についてはできるだけ正確を期したつもりですが、実際の制度運用は各自治体の実情により、その裁量に委ねられる部分も大きく、必ずしも作中のように行われているとは限りません。まして作中のように児童相談所の児童福祉司が、施設を訪れるたびに探偵の真似事をしているはずもなく、その意味でも、ここで書かれていることは、あくまでもフィクションでありファンタジーです。厳しい現実から見たら「こんな簡単なことじゃない」「そんなに物事うまくいかないよ」ということになるかもしれません。
 しかし、ファンタジー世界の鏡も時に真実を映し出すもの。もし作中に、現実の施設で暮らす子どもや、そこで働く人たちの思いの一片でも反映できたところがあったなら、作者としては嬉しく思います。

 七海学園にはたくさんの子どもたちが生活しています。今回謎を提供してくれたメンバー以外にも、まだまだ不思議な経験をしている子たちがいるようです。またいつか、その子たちの語る物語にも耳を傾けて頂く機会を作れたらと願っています。

(2008年10月)

■ 七河迦南(ななかわ・かなん)
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。2008年、『七つの海を照らす星』で第18回鮎川哲也賞を受賞してデビュー。