ここだけのあとがき
2008.10.06
七河迦南『七つの海を照らす星』[2008年10月]
ちょっとしたロジックを楽しんで頂くミステリです。
児童養護施設の群像劇から浮かび上がる「大きな物語」
第18回鮎川哲也賞受賞作
(08年10月刊『七つの海を照らす星』)
七河迦南 kanan NANAKAWA
『七つの海を照らす星』という題名から、気宇壮大な冒険小説や叙情的なファンタジーを想像された方がいたらごめんなさい。お読み頂けばわかる通り、この物語は、児童養護施設で暮らす子どもたちと若い女性保育士が、初夏から冬にかけての間に次々と出会う不思議な出来事とその後の顛末を描いたささやかな連作短編集で、題はこの学園のある「七海」という架空の田舎町の名前からつけられたものです。
七海学園の子たちは、経済的問題・虐待・家庭崩壊等々、皆それぞれに重い事情を抱えていますが、社会に何か問題提起をすることがこの小説の主旨ではありません。これは、あくまで幾つかのトリックやちょっとしたロジックを楽しんで頂くミステリとして書かれたものです。また関連する法律や制度についてはできるだけ正確を期したつもりですが、実際の制度運用は各自治体の実情により、その裁量に委ねられる部分も大きく、必ずしも作中のように行われているとは限りません。まして作中のように児童相談所の児童福祉司が、施設を訪れるたびに探偵の真似事をしているはずもなく、その意味でも、ここで書かれていることは、あくまでもフィクションでありファンタジーです。厳しい現実から見たら「こんな簡単なことじゃない」「そんなに物事うまくいかないよ」ということになるかもしれません。
しかし、ファンタジー世界の鏡も時に真実を映し出すもの。もし作中に、現実の施設で暮らす子どもや、そこで働く人たちの思いの一片でも反映できたところがあったなら、作者としては嬉しく思います。
七海学園にはたくさんの子どもたちが生活しています。今回謎を提供してくれたメンバー以外にも、まだまだ不思議な経験をしている子たちがいるようです。またいつか、その子たちの語る物語にも耳を傾けて頂く機会を作れたらと願っています。
■ 七河迦南(ななかわ・かなん)
東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。2008年、『七つの海を照らす星』で第18回鮎川哲也賞を受賞してデビュー。
- バックナンバー
- 秋梨惟喬『憧れの少年探偵団』[2011年11月]
- 『ガラスのターゲット』刊行記念特別掌編 安萬純一「日常の謎殺人事件」[2011年7月]
- フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳『犯罪』 ここだけの訳者あとがき【後編】(1/2)[2011年7月]
- 山口芳宏『蒼志馬博士の不可思議な犯罪』[2011年6月]
- フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳『犯罪』 ここだけの訳者あとがき【前編】(1/2)[2011年6月]
- 高橋良平+東京創元社編集部編『東京創元社 文庫解説総目録』 総目録補完計画
- 伯方雪日『死闘館 我が血を嗣ぐもの』[2010年6月]
- 倉阪鬼一郎『薔薇の家、晩夏の夢』[2010年6月]
- スペンサー・クイン/古草秀子訳『ぼくの名はチェット』[2010年5月]
- 加藤実秋『Dカラーバケーション インディゴの夜』[2010年5月]
- 山口芳宏『100人館の殺人』[2010年4月]
- 梓崎優『叫びと祈り』[2010年3月]
- 深水黎一郎『五声のリチェルカーレ』[2010年2月]
- 保科昌彦『ウィズ・ユー』[2009年12月]
- 滝田務雄『田舎の刑事の闘病記』[2009年11月]
- 相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』[2009年10月]
- 北山猛邦『密室から黒猫を取り出す方法』[2009年9月]
- 南園律『最上階ペンタグラム』[2009年2月]
- 千街晶之ほか『本格ミステリ・フラッシュバック』[2008年12月]
- 北山猛邦『踊るジョーカー』[2008年12月]
- 加藤実秋『インディゴの夜 ホワイトクロウ』[2008年12月]
- 山口芳宏『豪華客船エリス号の大冒険』[2008年11月]
- 七河迦南『七つの海を照らす星』[2008年10月]
- 麻見和史『真夜中のタランテラ』[2008年9月]
- 高井忍『漂流巌流島』[2008年7月]
- 吉永南央『誘(いざな)う森』[2008年7月]
- 竹内真『シチュエーションパズルの攻防』[2008年6月]
- 近藤史恵『ヴァン・ショーをあなたに』[2008年6月]
- 大崎梢『平台がおまちかね』[2008年6月]
- 早瀬乱『サトシ・マイナス』[2008年4月]
- 小林泰三『モザイク事件帳』[2008年3月]
- 太田忠司『奇談蒐集家』[2008年2月]
- 津原泰水『ルピナス探偵団の憂愁』[2008年1月]
- 石持浅海『温かな手』[2007年12月]
- 中野順一『ロンド・カプリチオーソ』[2007年12月]
- 小路幸也『HEARTBLUE(ハートブルー)』[2007年12月]
- 岸田るり子『ランボー・クラブ』[2007年12月]
- 門井慶喜『人形の部屋』[2007年12月]
- 海堂尊『夢見る黄金地球儀』[2007年12月]
- 近藤史恵『タルト・タタンの夢』[2007年10月]
- 滝田務雄『田舎の刑事の趣味とお仕事』[2007年9月]
- 秋梨惟喬『もろこし銀侠伝』[2007年8月]
- 石崎幸二『首鳴き鬼の島』[2007年7月]
- 久綱さざれ『神話の島』[2007年7月]
- 福田栄一『エンド・クレジットに最適な夏』[2007年6月]
- 篠田真由美『風信子(ヒアシンス)の家 神代教授の日常と謎』[2007年4月]
- 大崎梢『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』[2007年4月]
- 倉阪鬼一郎『騙し絵の館』[2007年3月]
- 藤野恵美『ハルさん』[2007年3月]
- 北山猛邦『少年検閲官』[2007年1月]
- 北國浩二『夏の魔法』[2006年12月]
- 道尾秀介『シャドウ』[2006年10月]
- 大崎梢『晩夏に捧ぐ 成風堂書店事件メモ(出張編)』[2006年10月]
- 山之内正文『八月の熱い雨 便利屋〈ダブルフォロー〉奮闘記』[2006年9月]
- 日向旦『世紀末大(グラン)バザール 六月の雪』[2006年6月]
- 大崎梢『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』[2006年5月]
- 加藤実秋『インディゴの夜 チョコレートビースト』[2006年4月]
- 岸田るり子『出口のない部屋』[2006年4月]