かねてより 一度やってみたいと思っていた。 | |
大量の伏線とトロンプルイユで描きあげた、 著者渾身の本格ミステリ。 07年3月刊 『騙し絵の館』 | |
倉阪鬼一郎 | |
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『騙し絵の館』の各章には、内外の詩から採ったエピグラフが配されている。かねてより一度やってみたいと思っていたのだが、ここだけの話、いまから三十年近く前にも似たような試みがある。 一九八〇年の六月、幻想文学研究季刊誌「金羊毛」が創刊された。のちに季刊「幻想文学」に発展的解消される同人誌だが、小生はここに「青猫の輪唱[カノン]」という中篇メタ幻想小説を発表している。執筆時はまだ十代、あまりにも若書きで恥ずかしいので初期作品集にも収録していないまぼろしの作品だ。 この作品はAからZまでの変則形式なのだが、随所にエピグラフめいたものが挿入される。これがまた恥ずかしい。原典の作者名を列記すると―― 萩原朔太郎、E・A・ポオ、中井英夫、A・P・ド・マンディアルグ、太宰治、ボードレール、大手拓次、久生十蘭、P・メリメ、安部公房、J・L・ボルヘス……。まったく汗顔の至りである。まあ要するに、どうもこういう人だったらしい。 習作「青猫の輪唱」には七色の部屋が登場する。色に関する妙なこだわりはその後も折にふれて変奏され、『騙し絵の館』にもつながっているから、これは三つ子の魂のたぐいと言うべきか。 ただし、両者のエピグラフでは決定的に違う部分がある。「青猫の輪唱」のそれは、幼い子供が手にした玩具を見せようとしているようなもので、あからさまな稚気が露呈してるにすぎず、いまとなっては顔を背けるしかない。 『騙し絵の館』のエピグラフも、ある意味では稚気の露呈ではあるけれども、さすがに三十年近く前の習作とは違う。クライム・クラブの前作『無言劇』では参考文献に徒労に近い労力を費やしたものだが(小声で言うと、誰も通らない館の裏に落とし穴を掘るがごとき作業だったが)、今回はエピグラフの取捨選択に時間をかけてみた。 果たして、その首尾やいかに。 (2007年3月) | |
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