ここだけのあとがき
2008.03.05
小林泰三『モザイク事件帳』[2008年3月]
ミステリとはなんぞやと考えることになった。
精密な論理が、そこはかとない黒い笑いを
構築する待望のミステリ連作集。 (08年2月刊『モザイク事件帳』)
小林泰三 yasumi KOBAYASHI
初の連作ミステリ短編集である。実のところ連作短編集は過去にも出したことがあるのだが、ミステリの連作短編集は初めてである。そもそもミステリのみの短編集もたぶん初めてじゃないかと思う。
今回の依頼を受けて改めてミステリとはなんぞやと考えることになった。ミステリの定義は古今東西、老若男女、大勢の方々が試みられているので、いまさらわたしがどうこう言う資格も能力もないのだが、とりあえずミステリを書かなくてはならないのだから、自分なりの定義がどうしても必要になるのでご勘弁いただきたい。
注意しなければならないのが、ミステリというのはエンターテイメントの中でも特に活気がある分野なので、とりあえず「ミステリ」と銘打っておこうとする動きがあることである。「サイエンスミステリ」とか「歴史ミステリ」とか「恋愛ミステリ」とか「ホラーミステリ」とか「幻想ミステリ」と言われているものが本当にジャンルミックス的な作品なのかというと、ほとんどはそんなことはなく単に「SF」だったり、「歴史小説」だったり、「恋愛小説」だったり、「ホラー小説」だったり、「幻想小説」だったり、「ミステリ」だったりするのである。
「謎の解明があればミステリでいいのではないか」という意見もあるだろう。しかし、そもそも「謎」の要素をいっさい含まないエンターテイメントは極めて考えにくい。もしなんの謎もないのなら、所謂「ネタバレ禁止」などという配慮はいっさい不要になるだろう。また謎解き以外のすべての要素を排除したミステリというのもまた考えにくい。それは小説ではなく、パズルに近いものになってしまう。仮に書けたとしてもそれがミステリの本流にはなりえないだろう。
「だったら、エンターテイメントは全部ミステリでいいんじゃないか?」
まあ、それでもいいんだが、「ミステリを書いてくれ」と言われて、普通の恋愛小説や歴史小説を書いて渡したら、喧嘩を売っていると思われかねない。ここは現実的な大方の読者が同意できる定義にしておく必要があるのである。
ミステリとは、探偵(役)が殺人事件の解明を行う物語である。
これはかなり狭めの定義だと思うが、殆どの有名なミステリは網羅できるだろう。ただし、怪盗ものなどが定義からはずれてしまうため、もう少し広めの定義も考えてみた。
ミステリとは、探偵(役)が謎の解明を行う物語である。
つまり、冒険が主でその過程で謎の提示と解明があるようなものはミステリには含めないということである。ミステリは、あくまで謎解きが主テーマであって欲しい。
という訳で、今回の短編集の各作品には必ず探偵(役)が登場し、謎解きに挑んでいる。以前からの小林作品読者にも、ミステリ読者にも楽しめるものになったと思うので、書店で見つけた時に手にとっていただければ幸いである。
■ 小林泰三(こばやし・やすみ)
1962年、京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」が第 10回SFマガジン読者賞国内部門を受賞し、同短編を表題作とした2002年刊行の短編集では、第22回日本SF大賞候補作となった『ΑΩ(アルファ・オメガ)』に続き、第23回日本SF大賞候補作となる。ホラー、ハードSF、ミステリなど、幅広いジャンルで創作活動を展開している。著書に『密室・殺人』『肉食屋敷』『目を擦る女』『脳髄工場』などがある。
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