ここだけのあとがき

2008.12.05

北山猛邦『踊るジョーカー』[2008年12月]

『踊るジョーカー』のあとがき
世界一気弱な名探偵がお弁当持って事件に挑む
キュートでコミカルな本格ミステリ連作集
(08年11月刊『踊るジョーカー』)

北山猛邦 takekuni KITAYAMA

 

 毎回締め切り限界突破で〈ミステリーズ!〉の担当さんにご迷惑ばかりおかけし続けてきた名探偵音野順の短編シリーズもついに一冊分になりました。
 連載二回目の「時間泥棒」の時には、自宅近くの小さな川が大雨で氾濫し、家の前に消防車が来てスピーカーで避難勧告を発するという状況の中、こっちもぎりぎりでそれどころじゃないんだよと思いながら原稿を書きました。ちなみに家は無事でした。なんだかんだで今まで続けてこられたのも、いつも辛抱強く原稿を待ってくれた担当さんのおかげです。ありがとうございました。
 理由はよく覚えていませんが、表題作である「踊るジョーカー」を書いた頃は、ひどく落ち込んでいて自信喪失しており、いろいろと悩んでいました。ある時ふと、そのまま自信のない気持ちを登場人物の一人として形にしてしまおうと思い立ち、結果として音野順が誕生しました。自信がなくて気が弱い、引っ込み思案でひきこもり、というあんまりいいところのない彼ですが、一応名探偵です。本書では彼が活躍します。一応。
 どの収録作からでも順番に関係なく読めると思いますが、順を追っていくと、何もなかった探偵事務所に毎回一つずつ何かが増えていくのがわかると思います。探偵事務所は徐々に豪華になっていくのですが、だんだんとへんなアイテムも増えていきます。ワトソン役である白瀬白夜という人物は、へんなものが好きなようです。
 本書に収録した短編はいずれも、本格ミステリとしてのポイントをきっちりと押さえつつ、あくまでコミカルに、あくまでライトに、という一貫したスタンスで書いています。なおかつ『密室』や『ダイイング・メッセージ』など、古くから存在するミステリの定型に対して、新しい一ページを加えられるだけのものを作ろうという気持ちで臨んでいます。
 といっても、読者の皆さんにはあまり難しいことを考えずに気楽に読んでいただけたらいいと思っています。
 まだ収録されていない作品もありますので、今後も名探偵音野順の活躍を応援してください。よろしくお願いします。
 最後になりましたが、毎回締め切りぎりぎりなのにもかかわらず素敵なイラストを描いてくださった片山若子さん、ありがとうございました。今回の本には雑誌掲載時の扉絵もすべて収録されていますので、読者の皆さんはぜひともご堪能ください。

(2008年12月)

北山猛邦(きたやま・たけくに)
1979年生まれ。2002年、『「クロック城」殺人事件』で第24回メフィスト賞を受賞してデビュー。機械的トリックの案出に強いこだわりを持つ一方、静謐で世紀末的な作品世界を構築する力量も高く評価されている。他の著作に『「瑠璃城」殺人事件』『「アリス・ミラー城」殺人事件』『「ギロチン城」殺人事件』『少年検閲官』などがある。

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