まだ大人になりきれず、もう子供でもいられない。
あえて小道具の過剰性を物語のテーマに組み込んでみた。
(07年1月刊『少年検閲官』)

北山猛邦 takekuni KITAYAMA

 

 さあ、まずは本書が刊行されるまでの長きにわたる闘争についてお話ししましょう。
 依頼をいただいたのはミステリ・フロンティアの第一回配本の直後でした。あれから何年経っているのか、引き算だけは誰にも負けないという方はぜひ計算してみてください。神秘的な数字が弾き出されるはずです。
 本作の基本となるアイディアは依頼をいただく前からありました。当時、いわゆる「若手」の書くミステリに対して、名探偵や首なし屍体や殺人鬼や孤島や城などの本格ミステリ的な小道具を無自覚にただ並べているだけである、といった批評が少なからず見受けられました。その批評が正しいかどうかはともかく、そこから本作のアイディアが生まれました。あえて小道具の過剰性を物語のテーマに組み込んでみたわけです。書きたいことは最初から決まっていました。
 では何に時間をかけたのかというと、この物語にふさわしい「形」を求める作業だったように思われます。その間の苦労話は号泣必至なので割愛しますが、長編から連作短編へ、連作短編から長編へ、という数度のモデルチェンジがあったことだけは、都合上ご報告しておきます。なお、このモデルチェンジに関しては、担当の編集者様から指示されたものではなく、すべて僕の一存です。あまり相談せずに没にしたり内容を変えたりするのが僕の悪い癖です。自分自身の作家イメージとしては、出来が悪い壷を片っ端から地面に叩きつけて割る陶芸家です。本書が出来上がるまでに、無数の破片が足元に散らばったことは言うまでもありません。
 しかし今回、こうして本書が無事刊行されることになったのには、紛れもなく担当編集者桂島様の耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶ忍耐があればこそに違いありません。もうだめだ……と何度も思わせてしまったでありましょうが、やっとやっとここまでくることができました。本当に長いことご心配をおかけしました。そして辛抱強くお待ちいただきありがとうございました。この気持ちは読者の皆様に対しても同様です。


 本書は二人の少年、クリスとエノの出会いの物語でもあります。二人はそれぞれまったく異なる境遇で生きてきましたが、共通しているのは、まだ大人になりきれず、もう子供でもいられない――そんな少年っぽさです。それが本書のもう一つのテーマといってもいいかもしれません。
 今のところ二人の少年の物語は三話目まで続く予定です。前述の通り、この物語は連作短編として構想した時期があり、その際に三つの話を用意しました。けれど一つ一つの容量があまりに多いため一冊の短編集として出すことは不可能に思われたので、一冊ごとの長編化を断行するに至りました。二冊目となる『オルゴーリェンヌ』(仮)は今年度中には出したいと思います。いわゆる孤島ものです。孤島大好き北山です。
 まだ距離感の覚束ないクリスとエノですが、これから共に出遭う事件の数々が、二人をちょっとずつ変えていきます。ぜひ二人を応援してやってください。
 最後に、個人的な謝辞を。
 本当に長いことお待たせした桂島様、ありがとうございました。まだこれで終わりではないので、引き続きよろしくお願いいたします。でももうそんなにお待たせしないようがんばります。
 それから陰ながら応援していただいたMさん、ありがとうございました。あなたのおかげで最後まで走れました。
 そして本書に関わってくださった皆様、ありがとうございました。

(2007年1月)

北山猛邦(きたやま・たけくに)
1979年生まれ。2002年、『「クロック城」殺人事件』で第24回メフィスト賞を受賞してデビュー。機械的トリックの案出に強いこだわりを持つ一方、世紀末的かつ叙情的な独自の作品世界を構築し、若手本格ミステリ作家として将来を期待されている。他の著作に『「瑠璃城」殺人事件』『「アリス・ミラー城」殺人事件』『「ギロチン城」殺人事件』『アルファベット荘事件』がある。『少年検閲官』は初の単行本。