ここだけのあとがき

2013.06.05

乾石智子『オーリエラントの魔道師たち』ここだけのあとがき[2013年6月]

乾石智子 tomoko INUISHI


 昨夜はそう遅くない時刻に、ホトトギスが忍音をもらしました。ちゃんと「ドッカアッチカラ」と歌えず、「アッチカラ、アッチカラ」と練習している模様。それでも、「夏は来ぬ♪」です。
 おかげさまで4冊めのオーリエラントです。今回は短編4本、色合い様々の魔道師たちをお楽しみください。
「紐結びの魔道師」は落ちぶれグラディエーター然とした巨漢がいきなり隣に立って、「書けー」と迫ってきたがために書かざるをえなくなった一編です。人の悪い、二枚舌で臍曲がりの剣士と、毒舌な割に情に流される年寄りコンビが銀戦士相手にたちまわり。羽住先生描く筋肉もりもりの髭面も、滅多にお目にかかれない逸品かと。
「闇を抱く」は女たちの物語。現実に同じような体験をして苦しんでいる女たちはたくさんいます。あれだけ辛い思いをしているのに現実は打開策がなく、それならせめて架空のお話の中で希望が見えればいいなぁと。わたしは特定の社会運動や特定の宗教・思想には関わっていませんが、人間、追いつめられたら何かにすがりつきたくなるのは当然かと思っています。たまたま彼女たちは闇を抱いて魔女になったわけで……実際、現実でも、魔女になりたくなることもたくさんあるし!
「黒蓮華」はミステリー風味の復讐譚です。CJボックス、Wクルーガー、リー・チャイルド、ジェフ・リンジー、Mコナリーなどのミステリーが好きで――性格上、つきつめて推理することは苦手なので、ただ楽しむだけ――何度もくりかえし読みます。――ボックス、クルーガーの美しい情景描写に惹かれるのも理由の1つですが、ほとんどはよく理解していないがため。わからないから読むんです。少しずつわかってくるのも読書の醍醐味――それで、ミステリー仕立てを試みたのですが、難しいですね。魔法でちょいちょいとはいかない。犯人を気取られないように、でも示唆しなければならない。できませんでした。あくまでもファンタジーとして読んでいただければ。
「魔道写本師」『夜の写本師』カリュドゥの師匠、スポーツ刈りのイスルイールの若き頃(といっても、実年齢は中年)のエピソードです。彼はどのような動機で夜の写本師になったのか、なぜイスルイールというイスリル帝国風の名前なのかがわかります。
 4本それぞれに違う色合い、さしずめ4色重ねのアイスクリーム、いやいや、山椒が入っていたり酢が入っていたり、相変わらず妙なお味ですが、彼らは彼らで一生懸命生きているつもりです。彼らとともにコンスル帝国を東西南北奔走し、2000年の時を行ったり来たり、心の中の世界をすこうし広げた気分になって、また明日からの生活をがんばっていただければ幸いです。

(2013年6月)

乾石智子(いぬいし・ともこ)
山形県生まれ、山形大学卒業。1999年教育総研ファンタジー大賞受賞。スターウルフで目を覚まし、コナン・ザ・バーバリアンから最初の一歩を助けてもらった。主な著書に『夜の写本師』『魔道師の月』『太陽の石』がある。山形県在住。


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