ここだけのあとがき

2012.04.05

乾石智子『魔道師の月』ここだけのあとがき[2012年4月]

乾石智子 tomoko INUISHI


 老魔道師、眉毛のケルシュに出番だよと言うと、「こんな年寄りをこき使う気か」と怒られた。「わしのような知恵者の鑑を主人公にしても始まらんぞ。未熟なキアルスを使え、キアルスを」
 頭でっかちのキアルスは、未熟ながらもよく動いてくれた。構成に悩んでいたとき、つじつま合わせの魔法を使ってくれたのも彼である。
 ある夜のこと、二人であれやこれやとコンスル帝国の地図を眺めていると突然、鮮緑の目をした黒髪のイケメンがあらわれて、背負っていた風呂敷(!)を地図の上にどさりと置いた。目を三角にして怒り始めたキアルスを尻目に、風呂敷の結び目を解く。すると、ごろんと黒い円筒が転がり出てきて薄目をあけ、舌をべろりと出して脅迫してきた。
――われを使え。使わねば呪ってやる……。
 悲鳴をあげてあとずさったわたしたちの目の前に、さらに皇帝やら近衛兵やら地方制圧の司令官やら気の強い女やら竪琴弾きやらよく似たかわいい姉妹やらが次々と飛び出してきて、やたらうるさくなったので、整列させて二つの枠に放りこんだ。片方はキアルスの世界に、もう片方はタペストリーの世界に。
 やっとその仕事が終わったと思ってふりむくと、二人の魔道師は、「ぼくらにはまだいろんな課題が残っているんだからね。魔法は使えないよ。それを解き明かす仕事はあなたの仕事だからね」と、それぞれに好きな酒など飲み始めていた。
 酒はなかったが、キャラバン・サライの珈琲とともに、窓辺でつづった物語、楽しんでいただければうれしい。

(2012年4月)

乾石智子(いぬいし・ともこ)
山形県生まれ、山形大学卒業。1999年教育総研ファンタジー大賞受賞。スターウルフで目を覚まし、コナン・ザ・バーバリアンから最初の一歩を助けてもらった。著書に『夜の写本師』がある。山形県在住。


ファンタジーの専門出版社|東京創元社
バックナンバー