市川哲也 tetsuya ICHIKAWA
あとがきなんて書くのははじめてで、どんなふうに書けばいいのかさっぱりわかりません。自作への想いをぶちまければいいのか、はたまた読みどころを語ればいいのか。こういうときは自分の好きな形式で書くに限りますね……たぶん。
で、私が小説のあとがきや映画のコメンタリー(あれも一種のあとがきですよね?)なんかを見ていて一番おもしろく感じるのが、制作過程やシーンの意図を語る形式です。なので、その形式で書いてみたいと思いますが、未読の方もいるはずなので、多少ぼかした表現が多くなることをご容赦ください。
私が当初、この三部作トータルでなにがしたかったのかというと『もしも名探偵が現実にいたら?』ということをなるべくリアルに考えてみることでした。
名探偵って頭良すぎない? 現実に大掛かりなトリック殺人なんてやれる? なんで名探偵はやたらめったら事件に巻きこまれるの? 等々、世間からツッコまれそうな疑問に自分なりになるべくリアルな解答をしてきたつもりです。
ところが、どうしても現実的な枠だけで語るのは不可能で、なぜ何回も何回も事件に巻き込まれるのかと現実的に解釈をしたら、それは探偵か探偵の仲間がせっせと事件を起こしていると考えるしかなくなります。それじゃ面白くないし、警察だって見逃してはくれないでしょう。そうなると人知を超えた力を持ち出さざるをえませんでした。一作目に出てきた『calling』という概念がそれです。
しかし、この設定を名探偵が存在する世界で認めさえすれば、いろいろなミステリ的問題が解決できることに気づきました。
最初は、おーうまいことはまったなあ、ぐらいの感じでしたが、二作目を書き終えるころには、これを巡る話こそが全体を貫くテーマになるべきだと思いました。
私としては今作は、ミステリというよりバトルものになってしまったのではないかと思っています。もちろんドンパチやっているわけじゃありません。誰と誰がどうやって戦っているのかは、本編で感じていただけると幸いです。
長々と語ってしまったので、個々の事件については割愛します。
最後に私が一番懸念しているのが物語の終盤にあるあの展開です。ずっと頭を悩ませていましたが、最終的にはああいう形を選びました。あれでよかったのか……でもやっぱり物語の最後はあれだよなぁ……違うか? いやでも、ああ、やっぱりまだ悩む……。
(2016年8月5日)
■ 市川哲也(いちかわ・てつや)
1985年高知県生まれ。太成学院大学卒。2013年、『名探偵の証明』で第23回鮎川哲也賞を受賞。
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