ここだけのあとがき
2009.12.07
保科昌彦『ウィズ・ユー』[2009年12月]
依頼は、何とゲーム中の誘拐事件!? 著者初の私立探偵ミステリ。
(09年12月刊『ウィズ・ユー』)
保科昌彦 masahiko HOSHINA
「次はユーモア・ミステリを書いてみたいんです」僕がそう告げると、東京創元社の担当編集者氏は一瞬、虚をつかれたような顔になりました。
というのも僕は日本ホラー小説大賞の長編賞をいただいてデビューして以来、ホラーやサスペンスばかり書いてきたからです。「あいつは江戸川乱歩みたいに、ローソクだけをともした暗ーい部屋で小説を書いてるんじゃないか」と周りの人間も噂するほどで、担当編集者氏が驚かれたのも無理はありません。
「まあ、とりあえずやってみましょうか」ということで書き始め、様々な方々にお力添えをいただいて出来上がったのが今回の作品です。内容に関しましては、「おもしろいので、とにかく一度読んでみてください」というのが正直なところです。以上、終わり──というわけにもいきませんので、蛇足的脚注のようなものを少しお喋りさせていただければと思います。
あ、ついでに申し上げておきますと、自作についてのあとがきを書くのもこれが初めてだったりします。
〈ウィズ・ユー〉(本文14ページ11行目)…本作の舞台となる仮想空間です。インターネット上に架空の街が構築されていて、プレイヤーはその中で会社を経営したり子育てをしたりと、思い思いの時間を過ごします。モデルとなったのはもちろん〈セカンド・○○○〉ですが、本家よりもリアル志向だという設定です。〈ウィズ・ユー〉のキャラクターである四歳の女の子が誘拐され、その“父親”が事務所を訪ねてくるところから物語は始まります。
U円(本文22ページ5行目)…〈ウィズ・ユー〉の中で流通している仮想通貨です。〈セカンド・○○○〉同様、U円は現実の円と交換することができ、レートは日々上下します。誘拐犯はキャラクターの身代金として五千万U円という大金を要求してきます。
ピアノ(本文26ページ6行目)…本作を書いていた頃、ドラマ版『のだめカンタービレ』の再放送が始まり、初めて見た僕はすっかりハマッてしまいました。週末の夜更けにはグラス片手に『のだめ』を見ながら泣いたり笑ったりしていることが多く、家人にはかなり気味悪がられました。
探偵業の業務の適正化に関する法律(本文65ページ20行目)…それまで日本の私立探偵には資格・免許の類はなかったのですが、2007年6月にこの法律が施行されたことにより、探偵業は届け出制となりました。本作の主人公が籍をおく若槻調査事務所もこの法律に則って活動しています。米国産ハードボイルドと違って日本の私立探偵には捜査権も銃もなく、主人公たちは知性と粘りと多少の運を武器に誘拐犯に立ち向かっていきます。
ヒッチコック(本文154ページ20行目)…言わずと知れたサスペンス映画の神様です。ヒッチコックはブロンド美女がお好みだったようで、「主演女優を口説こうとして次々と振られた」「ブロンド美女をいたぶって喜んでいる困った御仁だ」などいろいろ言われていますが、グレース・ケリーやティッピー・ヘドレンに惹かれるなというほうが無理な相談ではないでしょうか。
ジョニー・デップの映画(本文223ページ16行目)…これはジョン・バダム監督の『ニック・オブ・タイム』という作品です。J・デップ演じる主人公は娘を人質に取られ、ある人物を殺害するよう強要されます。この映画はヒッチコックの『ロープ』
と同じく、劇中の時間経過と実際の上映時間を同調させており、その手法がより一層緊迫感を高めています。まだ初々しいJ・デップのスーツ姿が見られますので、ご興味を引かれた方はご覧になってみてください。
犯人 本作の犯人は──それをここで明かすわけには行きませんので、ぜひ一度お手に取ってみてください。
■ 保科昌彦(ほしな・まさひこ)
1963年、香川県生まれ。『相続人』で第10回角川ホラー小説大賞長編賞を受賞。著作に、『相続人』『オリフィス』『ゲスト』など。
推理小説の専門出版社|東京創元社
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