ここだけのあとがき

2010.06.07

伯方雪日『死闘館 我が血を嗣ぐもの』[2010年6月]

ここだけのあとがき
ニュージーランドの山奥、嵐と火山で閉ざされた日本家屋。
格闘家一族をめぐる不可解な連続殺人。
新鋭が満を持して放つ初長編。
(10年6月刊『死闘館 我が血を嗣ぐもの』)

伯方雪日 yukihi HAKATA

 

 「ニュージーランドにある日本屋敷を舞台にした格闘技のお話」……。

 まるで無茶振りされた三題噺のようであるが、こんな組み合わせで本格ミステリを書こうなんて輩がこの世にいるのだろうか。いるとすればそいつはバカなんじゃないだろうか。

 ……はい、そうです。私がそのバカです。
 皆さん大変ご無沙汰しておりました。『誰もわたしを倒せない』でデビューし、そのまま忘れ去られていた男、伯方雪日です。
 いや、忘れ去られたのはもちろん自分のせいなんですよ。そりゃそうです。作品を書いてなかったんだから。いや、あの、書いていなかったというわけでもないんですが、極度のスローペースというか、面倒くさがりというか、あのその、書き方がわからなかったというか。
 いや、実際そうなのです。僕は普段某大手書店の文芸書担当としてばたばたと忙しく働いているのですが、何を思ったか突如思いついたネタで短編ミステリを書いてしまい、仕事上のコネで当時の東京創元社さんの社長である戸川安宣さんに読んでいただき、「面白いので続きを書いてください」と持ち上げられ、それでもどう書いていいかわからず、数年かかって捻り出したのが前著『誰もわたしを倒せない』だったのでした。
 これは連作短編集で、最後に収録されている表題作が、生まれて初めて書いたミステリで、戸川さんに読んでいただいたものでした。
 要するにまだまだ素人芸で、しかも賞に応募するような下積みも何もなし状態だったため、一冊搾り出しただけで抜け殻のようになっちゃったのです。
 「次は長編を」というありがたいお言葉をいただいたのですが、「長編ってどーーやって書くの!」という無言の叫びが心の中に渦巻いてました。
 「長編なんてまだ無理だ」と思い込んだ僕は、とにかく短編をもう少し書いて勉強しよう、と何作か短編を書いていました。そこで判明したのが、あまりにもいい加減な僕の書き方。メインのネタだけ考えたら、後はすべて行き当たりばったり。都合によって登場人物を変え、設定を変え、性別を変え、伏線を後から挿入し、ひどいときは犯人を平気で変更してしまう。そんな風に創るものだから、あとで読み返しても自分で「誰が犯人だろう」とかわからなくなってたりします(笑)。
 短編ならそれでどうにかなったのですが、さすがにこのやり方では長編は無理だ、と思いました。編集さんとの打ち合わせで、「もう一度格闘技もの」というのは決めてあったので、それをベースに長編にできるネタは……と考えていたところ、以前に一度考えたバカミスネタが再浮上してきました。
 それは、いわゆる「登場人物が閉じ込められた館もの」で、しかし閉じ込められたのが全員最強の格闘家である、というもの(笑)。せっかくなら同じ一族のほうが横溝っぽくていいぞ、とか悪乗りして、当時隆盛を誇っていたグレイシー柔術の一族をモデルにすることを考えました。舞台はブラジルです。「んー、でもそのまんますぎるなあ」と思ったところで、「誰もわたしを倒せない」に登場させたマオリの格闘家、ダレン・スチュードを思い出し、彼のバックボーンを膨らませることによって架空の格闘家一族を考えてみたのです。舞台をニュージーランドに移し、マオリの神話や風俗を調べるうちに、いろいろ盛り込めるネタが増えてきました。特にダレンの父であり、一代にして「アオテア柔術(架空の格闘技です)」を作り上げた、この物語のキーパーソンでもあるテ・ケレオパに関してはどんどんイメージが膨らみ、作中作的にその若き日のエピソードを盛り込むまで気に入ったキャラクターとなりました。
 また、マオリの伝統武芸と日本の柔術を統合した、という設定から、絵的な面白さも狙って、ニュージーランドに日本屋敷を建てることを決め、こうして三題噺が出揃いました(笑)。
 そんなこんなで、生まれて初めての長編に着手し、短編とは違ってきちんとプロット作りから始め、一年ほどかかって初稿が完成しました。
 僕の悪い癖なのですが、ここで脱力しちゃって、しばらくなにもできなくなっちゃいました。今でもそうなのですが、自分の作品を読み返すのが苦痛なのです。どうにも客観的になれない。気恥ずかしい。
 それでもなんとか気力を奮い起こし、編集さんにいろいろご指摘を受け、改稿に挑みました。百枚ほど書き足してほぼ最終稿に近くなったのは、初稿完成から一年も経った頃でしょうか。編集さんも呆れてしまったのか、しばらく出してもらえるのか不安になる日々が続きました。
 しかしその間に無名作家にとってはあまりにも美味しいアンソロジー『蝦蟇倉市事件』に参加させてもらい、これがまた書いてから刊行されるまでに数年かかったこともあり、単に待機している新作が多すぎて順番待ちなんだ、と知ってほっとしたのでありました。
 そんなわけで、ようやく刊行の順番がやってきました。
 『死闘館 我が血を嗣ぐもの』。我ながら面白いものが出来上がったと自負しております。格闘技に興味なくとも大丈夫です(ホントかよ)。ぜひとも、ご一読を。

(2010年6月)

伯方雪日(はかた・ゆきひ)
1970年京都府生まれ。京都大学工学部精密工学科卒。書店勤務の傍ら、執筆活動を展開。2003年、短編「必然なる偶然」が『創元推理21』に掲載されデビュー。2004年、連作短編集『誰もわたしを倒せない』を発表。大胆な発想と確固たる構成力が注目を集める。本書は、満を持して放つ長編第一作となる。


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