みなさんは、英国推理作家協会(CWA)が設けている図書館賞という賞をご存じでしょうか? この賞はイギリスの図書館員によって選ばれるもので、ひとつの作品ではなく作家に対して授与されます。この、本の目利きによる栄誉ある賞を2006年に受賞したのが、『火焔の鎖』の著者ジム・ケリーです。
ジム・ケリーは2002年、イギリス東部の町イーリーを舞台にした『水時計』でデビューしました。イギリス生まれの元ジャーナリストで、自身の新聞記者としての経験に基づいて、新聞記者のドライデンを主人公としたミステリのシリーズなどを書いています。彼は自身のホームページで、好きな作家としてレイモンド・チャンドラーやR・D・ウィングフィールド、エリザベス・ジョージ、セバスチアン・ジャプリゾ、エドマンド・クリスピンなどを挙げています。そして“人生を変えられた一冊”はドロシー・L・セイヤーズの『ナイン・テイラーズ』だと語るなど、伝統的なミステリを愛し、黄金期の探偵小説を彷彿とさせる謎解きミステリを執筆しています。
そんな著者の代表シリーズがデビュー作の『水時計』、そして第2弾である本作を含む〈新聞記者ドライデン〉です。主人公のドライデンはかつてロンドンの新聞社で働いていましたが、不幸な自動車事故に遭い、現在はイーリーという町で『クロウ』という新聞の記者をしています。事故の影響で妻のローラが閉じ込め症候群(LIS)と呼ばれる状態に陥ってしまったからです。身体機能は正常で、ある程度まわりの状況を把握しているのに外的刺激に反応せず、病院のベッドに横たわり続けるローラ。彼女のそばにいるために、比較的時間の自由がきく『クロウ』で働くことを選んだのです。
1作目の『水時計』では、11月の痺れるような寒さのなか、凍った川から氷漬けの死体が発見され、河川、洪水、雨など全編を水に彩られた事件が描かれました。本作『火焔の鎖』では、うってかわって6月、大旱魃に見舞われ“沼沢地の風”と呼ばれる砂塵嵐が吹き荒れる灼熱の時期を舞台にしています。
27年前、米空軍の輸送機が農場に墜落した。この事故で九死に一生を得たマギーは、とっさに乗客の死んだ赤ん坊と自分の息子をすり替えていた。なぜ我が子を手放したのか? 少女の失踪や不法入国者を取材しながら真相を探るドライデンは、拷問された男の死体を見つけてしまい……。大旱魃にあえぐ沼沢地を舞台に、敏腕記者が錯綜する謎を解き明かす!
赤ん坊のすり替え、少女失踪事件、相次ぐ放火、そしてドライデンが発見してしまった拷問死体……。前作をしのぐスケールの大きな謎が登場し、事件はどんどん錯綜していきます。著者は巧妙に伏線を張り巡らし、謎を解く鍵をさりげなく示して読者を翻弄します。
『水時計』を未読でも、読書の楽しみをさまたげられることはありません。著者の見事な筆さばきをお楽しみください!
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本格ミステリの専門出版|東京創元社