【お腹に顔を埋められるとでも思った?】
30歳になるまで、猫を飼う未来があろうとは予想もしていませんでした。
理由は明快で、母親が大の猫嫌いだったからです。しかし、家のドアを開けると恐竜が闊歩していた昭和期、東京の下町には必ず「猫屋敷」がありました。
よく我が家の庭先に来て、気儘に草花におしっこをしたり軒先に吊していた祖母のカナリアを狩ったりしていた近所の猫たちは、大抵いくつかの猫屋敷で外飼いにされている子たちでした。
やっていることは歌舞伎町の半グレなみに凶悪であっても、しかしとにかく猫は可愛かった。私と姉は級友を連れて、日がな猫たちを追い回したものです。
たぶん、初めて「猫を飼いたい」と心に芽生えたきっかけは、神林長平先生の〈敵は海賊〉シリーズに登場する黒猫(正確には黒猫の姿を持つ宇宙人)「アプロ」です。
小学五年生、忘れもしない「ブックスキデイランド千葉店」で、二冊までなら文庫本を買ってもいいと親に許され、選んだ一冊が神林長平先生の『敵は海賊・海賊版』(ハヤカワ文庫JA)でした(ちなみにもう一冊は同じく早川書房から刊行されていた梶尾真治先生『未踏惑星キー・ラーゴ』。最後のどんでん返しも素晴らしく、登場するタマゴ熊も可愛かったのですが、とにかく地球の状況がディストピア過ぎて泣きました)。天野喜孝氏によるふわもちっとしたアプロのイラストに魅入られ、内容紹介も読まずに購入を決めました。
猫、いや猫型宇宙人アプロは、正直見た目ほど可愛くありません。容赦なく人を殺し、ずる賢く猫を被り、上司や相棒の言うことを聞かず、思わぬ大騒動を起こし、欲望に忠実に行動する様は清々しい程です。うん可愛い。
実際に猫と暮らしてみると、あまりの猫に対する解像度の高さに驚きますが、神林先生が猫を飼っているとInstagramで知り、なるほどと納得した次第です。
時は流れ、社会人になり、ご縁があって保護猫を迎えることになりました。やってきた四か月の茶虎白の雄猫は、ぶっちゃけガミッチの知性を三分の一くらいにしてサイコの気質を若干マイルドにしたようなやんちゃな猫でした(フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』参照)。
おまけに大の人間嫌いで、引き取って約一年は飼い主の前にもあまり姿を見せず、もちろんろくに触ることも出来ませんでした。『幻の女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)ならぬ『幻の猫』です。
すみません、創元の本を一切紹介しないまま、次回に続きます。
(編集部F)