ミュンヘン市警の女性捜査官ザビーネのもとに、離れて暮らす父が訪れた。
「母さんが二日前に誘拐された」
犯人は二日前に父に電話をしてきて、四十八時間以内に別れた妻が誘拐された理由をつきとめなければ彼女を殺すと伝えてきたという。誘拐の証拠に犯人は、父のアパートの玄関先にインクのボトルが入った箱を置いていった。
だが、ザビーネのもとに父が来たときには、犯人の告げた四十八時間の期限は過ぎていた……
母の捜索を要請するザビーネに告げられたのは、ミュンヘンの聖母教会で身元不明の女性の死体が発見されたとの情報だった。
死体はパイプオルガンの演奏台に縛りつけられ、口にはホースが、その末端には漏斗が差し込まれていた。いったい何の意味が? 死体は間違いなくザビーネの母だった。
最悪なことに、父が有力な容疑者として挙がったのだ。父と母は泥沼の離婚闘争の末に別れたうえ、犯人が父に送りつけたインクのボトルと同じものが、犯行現場に残されていた。
被害者も容疑者も関係者であるということで、ザビーネは捜査から外された。だがザビーネは、父が犯人のわけがないと信じていた。このままでは父が犯人にされてしまう。捜査に関わるなとの命令を無視して動こうとするザビーネの前に現れたのは、連邦刑事局から派遣されたプロファイラー、マーティン・S・スナイデル、なにひとつ見逃さない古狐と言われる男だった。凄腕捜査官、だがこれが曲者だった。
まず、ものすごく無愛想で口が悪い。到着していきなり会議室に陣取り、ミュンヘンの捜査官たちをあごでこき使う。相手を能なし呼ばわりをし、高慢ちききわまりない。
だが、ザビーネに選択肢はなかった。捜査に関与するにはスナイデルと行動するしかない。
こうして暴走気味のはみだし女性捜査官と、嫌われ者の変人分析官の捜査がはじまった……。
『夏を殺す少女』の著者がまたしても名コンビを誕生させた。個性的かつ魅力的な捜査官が追う奇怪極まる事件の真相は?
◆『夏を殺す少女』の著者が童謡見立て殺人に挑む!
(2016年2月5日)
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