Webミステリーズ!

〈Webミステリーズ!〉は、ミステリ、SF、ファンタジイ、ホラーの専門出版社・東京創元社が贈る月刊ウェブマガジンです。毎月5日ごろに更新しています。  創刊は2006年3月8日。最初はwww.tsogen.co.jp内に設けられました。創刊時からの看板エッセイが「桜庭一樹読書日記」。桜庭さんの読書通を全国に知らしめ、14年5月までつづくことになった人気連載です。  〈Webミステリーズ!〉という名称はもちろん、そのころ創刊後3年を迎えようとしていた、弊社の隔月刊ミステリ専門誌〈ミステリーズ!〉にちなみます。それのWeb版の意味ですが、内容的に重なり合うことはほとんどありませんでした。  09年4月6日に、東京創元社サイトを5年ぶりに全面リニューアルしたことに伴い、現在のURLを取得し、独立したウェブマガジンとしました。  それまで東京創元社サイトに掲載していた、編集者執筆による無署名の紹介記事「本の話題」も、〈Webミステリーズ!〉のコーナーとして統合しました。また、他社提供のプレゼント品コーナーも設置しました。  創作も数多く掲載、連載し、とくに山本弘さんの代表作となった『MM9―invasion―』『MM9―destruction―』や《BISビブリオバトル部》シリーズ第1部、第2部は〈Webミステリーズ!〉に連載されたものです。  紙版〈ミステリーズ!〉との連動としては、リニューアル号となる09年4月更新号では、湊かなえさんの連載小説の第1回を掲載しました(09年10月末日まで限定公開)。  2009年4月10日/2016年3月7日 編集部

「東京創元社 presents 創元ゼーガペイン・ラジオ」やってみた


2019年8月末に刊行した高島雄哉『エンタングル:ガール』(創元日本SF叢書)は、ゼロ年代を代表する本格SFアニメーション『ゼーガペイン』(2006年テレビ放送)と、その後劇場作品として作られた『ゼーガペインADP』(2016年公開、ともにサンライズ制作)を高島さんのオリジナルな着想で再構築したスピンオフ小説です。


『エンタングル:ガール』の刊行からひと月近く経ちますが、『ゼーガペイン』ファンの皆さんはもとより、『ゼーガペイン』を御存じなかった方々にも賞賛をいただいています。たいへん心強く思っています。

東京創元社では、発売前の2か月間、新しい新刊プロモーションを試みました。

「東京創元社presents 創元ゼーガペイン・ラジオ
です。



YouTubeに開設している「東京創元社チャンネル」で全10回、毎週水曜夕方に配信しました。著者の高島雄哉さんと、弊社担当編集者・小浜徹也のふたりで執筆の裏話や、関連するSFや科学についてお話しする番組です(配信にあたっては、オーディオブックkikubonでお馴染みのRRJの協力を得ました。深く感謝いたします)。

配信時は原稿のやりとりの真っ最中だったので、裏話といっても回顧ではなくリアルタイムの話題だったわけですが、すでに『エンタングル:ガール』をお読みいただいた皆さんにも、あらためて楽しんでいただける内容になっていると思いますので、ぜひご視聴ください。 今後も「東京創元社チャンネル」でさまざまな企画をお届けしたいと考えています。気にいっていただければ、チャンネル登録をお願いいたします。

(東京創元社編集部・小浜徹也)

短編ミステリの二百年(短編ミステリ読みかえ史)【第127回】小森収


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【東京創元社編集部より】
小森収先生の連載「短編ミステリ読みかえ史」は、10月に創元推理文庫より発売されるアンソロジー『短編ミステリの二百年1』の書名に合わせ、今回より「短編ミステリの二百年」と改題いたします。引きつづきご愛読たまわればさいわいです。



 マイケル・ギルバートは、イギリスの中堅作家ですが、おそらく短編のスパイ小説がもっとも多く邦訳された作家でしょう。この作家は、私が20代のころ、たまたま入手できたので読んだ『ひらけ胡麻!』が面白かった記憶があるのですが、その10年後くらいに再読したときに失望した記憶もあります。日本で一番読まれている彼の作品は『捕虜収容所の死』でしょう。マニング・コールズやヘレン・マッキネスといった作家同様、スパイ小説を書く作家として、名前があがることも珍しくはありません。
 マイケル・ギルバートのスパイ小説には、シリーズキャラクターが登場します。表向きはロンドン・アンド・ホームズ銀行ウェストミンスター支店支配人であるフォーテスキュー氏、実は統合情報活動委員会外事部長で、007ならⅯにあたる管理職です。ぶっそうな仕事を主として受け持つのが、コールダーという男で、丘の上に居を構え(その日常的な警戒ぶりは「招かれざる客」に描かれています)、頭の良いディアハウンド犬のラッセラスを飼っています。丘の麓には親友のベーレンズが、何も知らない伯母と暮らしています。彼もスパイ活動に従事していますが、コールダーが任務で家をあけるときには、ラッセラスの面倒を見るのです。
 もっとも読みやすく、口当たりのよい仕上がりになっているのが、エリック・アンブラーがアンソロジーに採った「殺しが丘」でしょう。それが証拠に「一石二鳥」「狙った女」と異なった題名で、二度もミステリマガジンに掲載されました。ふたりの趣味であるバックギャモンをやるために、ベーレンズがコールダーを訪ねて丘の上までやって来ています。読者から見れば他愛ない世間話にしか見えないものが、いつのまにか、情報部に入り込んだ女スパイを排除する話になっています。そして、コールダーが実際の任務に入る。ところが、現場で標的をとらえたところに、軍人らしき若者が現われる。どうやらウサギを撃ちにきたようです。躊躇する暇もあらばこそ、若者がウサギを打つのとほぼ同時のタイミングで狙撃してしまう。ウサギ狩りにきて、誤って人を撃ったと思わせ、後始末を押しつけたのでした。その後のサゲは頬をゆるませるものがありますが、終わってみれば、いとも簡単に敵のスパイを排除したというだけの話でした。
「殺しが丘」にディテイルとして触れられるのが「プロメシュース計画」「殺しが丘」では「プロメテウス作戦」となっていて、こちらの方が適当でしょう)です。フォーテスキューが、ベーレンズに向かって、近ごろコールダー(キャルダーと訳されていますが)の様子がおかしい、精神に異常をきたしたのではないかと相談します。コールダーが現在関わっているのは、三派に揺れる東欧のアルバニアに介入しようとする計画です。三派というのは、スターリニスト(親ソ)、チトー派(親ユーゴ)、ギリシア派の三つで、当然ながらギリシア側につけておきたい。かの地の言語はもちろん、風俗習慣にも通じているコールダーが、アルバニアに潜入して、かの地の内通者に連絡をつけるのです。ところが、計画のプレッシャーからか、言動に異常が見られるようになった。ベーレンズがコールダーのところへ行くと、一足早く失踪しています。作戦に関与している三人目の男ハーコート海軍中佐とともに、コールダーを探し、目撃情報と飼い犬ラッセラスの活躍で、どうにかコールダーは見つかりますが、とても任務は果たせそうにない。戦時中アドリア海の潜水艦作戦で名をあげたハーコートが、コールダーの代役を務めることになります。
 出だしこそ快調ですが、ミッションの細部が、大雑把なので、作戦そのものに、読者を引きつける魅力のないのが、困ったところです。内通者に会えればミッション成功というだけでは、ゲームの設定の域を出ません。この部分が緩くては、グリーン、アンブラーを読んだ目には、古めかしいスパイ小説に見えるのも仕方ありません。
 同じようなことは「触媒間諜」にも言えて、思想と行動の関係、結びつきというのは、こんなに単純な問題ではないでしょう。「テロリスト」は、ロンドンで暴力行為を働いた、ガヴィガンというアラビア人(英国国籍で軍隊にもいたことがある)を、シヴァストリアスという人物がリクルートし、アラビア国王の暗殺の手駒にしようとします。小説の冒頭で、次官なる人物が、アラビア国内の反対勢力――シヴァストリアスの名も出てくる――についてのレポートを読んで、フォーテスキューの活動を示唆するので、読者には、ガヴィガンへの接触そのものが、仕組まれたものだろうと想像がつきます。その過程はさすがに面白いのですが、その後の彼らの活動――コールダー(ここではカルダーと訳されています)はフォーテスキューの話の中に登場します――は、あまりに一方的で、これほど簡単に片づくなら、こんな手の込んだまねは要らないのではないかという疑問が浮かびます。
 マイケル・ギルバートのスパイ小悦の緩さは、この作家の考えるスパイ活動が、第二次大戦中のそれを基準にしているためではないでしょうか。そのことは、第二次大戦中のベーレンズの活動――ヒットラー暗殺グループに接触する――を描いた「神々の黄昏」や、かつてコールダーが拷問にかけた――おそらくは戦争中に――男が、彼を殺しにやって来る「招かれざる客」といった作品に、顕著でしょう。

 第二次大戦の存在は、それを契機に冷戦構造が作られたことが、スパイ小説を読み語る上で、従来、重視されてきました。私もそうしたひとりです。しかし、第二次大戦そのものが、スパイ小説が書かれ読まれる上で、重大な画期となったのではないか。今回、スパイ小説の短編を読んで、そんなことを考えました。
 先に書きましたが、グリーン、アンブラーのふたりは、戦中を描くことはありませんでした。唯一の例外はグリーンの『恐怖省』でしょうが、そこで描かれたのは、空襲下のロンドンであって、最前線ではありませんでした。『密使』は、戦争当事国から密命を帯びて、平時のロンドンにやってきた工作員の話でした。この小説など、スパイは戦地にはいないと主張しているようにさえ、私には見えました。すなわち、戦時中の、あるいは戦地でのスパイ活動は、戦時の作戦行動と変わらないものに見えるのです。そして、戦争というものを描くという観点からは、それらの小説は、どうしてお気楽なものに見えてしまう。
『世界スパイ小説傑作選3』に収められた作品に目を向けてみましょう。テレンス・ロバーツの「ブラック・ミステリー」やトマス・ウォルシュの「敵のスパイ」といった、第二次大戦下の作品には、どうしても、お話を作る手つきの安直さが、透けて見えます。もちろん、冷戦下の物語であっても、ロバート・ロジャースの「ワルシャワの恋」のように、話の底の浅いものはあります。しかし、ロナルド・サーコームの「裏切り者」のような平凡なスパイ小説でさえ、事件当時者の緊張感は伝わるだけの企みと展開を見せるのです。異色作として推奨したいのが、ジョセフ・ホワイトヒルの「アカデミー同窓生」です。ちょっと、ニューヨーカーふうの題名ですが、かつて美術学校で、ひとりの生徒の挑発から、主人公は両腕の自由を失います(絵筆もとれません)。長じて、ふたりともが、相対する諜報機関に所属するというのは、作家の都合が見える展開かもしれませんが、その美術学校で対峙することになる。〈人間性への不信〉が流れるはずのスパイ小説に、奇妙な友情めいたもの(を含んだ複雑な感情)を持ちこみながら、なお、スパイ小説でありえていました。
 冒険小説とスパイ小説を弁別するものとして「前者は〈人間性への信頼感〉が物語の底に流れるのに反し、後者は〈人間性への不信〉がある」と各務三郎は指摘しました(『推理小説の整理学』)。ファナティックな冒険小説と化した冒険小説としてのスパイ小説が、息を吹き返すには、冷徹な現実の戦争を経験し、その上でなお、「人間性への信頼」を持ちうるかという問題意識のもとに書かれる必要がありました。アリステア・マクリーンの処女作が『女王陛下のユリシーズ号』であったのは、偶然ではないと、私は考えます。戦争とは同胞を死地に赴かせることにほかならない。この認識なくして『ナヴァロンの要塞』以下の作品が生まれるわけがありません。そして、そこに気づかないままの、スパイ冒険小説がぬるま湯めいたものになるのは、当然のことでしょう。
 名前をあげるだけに留めますが、マクリーン以後、ハモンド・イネス、ギャビン・ライアル、ディック・フランシス、デズモンド・バグリイといった作家が出ることで、冒険小説は隆盛を見せます。それらの作家に対しても、イアン・フレミングがユニークだったのは、冒険とは快楽でもありうるという、実際の戦争の悲惨さゆえに、見過ごされていた側面を、前面に押し出したためではないでしょうか。美酒、美食、美しい女性、贅沢なリゾート。そういったものと、冒険は並列されたのでした。そして、そこに必要だったのは、現実にはありえないようなフィクショナルな――火を吹く竜のような――悪役でした。
 映画によって増幅された007ブームのありようは、小林信彦が『世界の喜劇人』で簡潔に描いています。「それが忠実に映画化されるほど、本質的には連続大活劇になり、現代人の感覚では〈ナンセンス〉としか受けとめられなくなる。すると、今度は、〈ナンセンス〉を初めから意図して、ボンド物よりはるかにロウ・コストでつくる――となれば、内容は連続漫画にならざるをえない」
 ミステリマガジンはその歴史の中で、増刊号を3回出して、そのうちふたつが「007特集」「ナポレオン・ソロ特集」でした。

 現在、スパイ小説家をひとりと言われたら、たいていの人が、ジョン・ル・カレの名をあげることでしょう。名実ともに、20世紀後半を代表するスパイ小説家であることに、間違いはありません。しかしながら、そのル・カレにしてからが、スパイ小説の短編というものは、紹介されていません。以前、最盛期のMWA賞のところで、候補作となった短編「ベンツに乗った商人」を読みました。東西に分断されたドイツを舞台に、東側にいる家族を西側に迎え入れるハメになった主人公を描いた、好短編でしたが、スパイが登場する小説ではありませんでした。もっとも、スパイを職業とする人間――フリーランサーであれ公務員であれ。この違いは案外大事なんですよ――が出ないからといって、スパイ小説ではないと判断するのは早計というもので、やむにやまれぬ事情から、冷戦下の国境を不法に越える主人公をサスペンスフルに描くのは、実質的にはスパイ小説の魅力と言えるでしょう。
 小説でスパイを描くときに、どういうところが魅力的なのか? そんなことを考えさせてくれるのが、ミステリマガジン2014年2月号のジョン・ル・カレ特集に掲載された「ジョージ・スマイリーの帰宅」という短いドラマシナリオです。スマイリーが洗濯屋に受け取りに来ている。妻が家を出た日なので洗濯物を出した日を覚えているというのは、小説書きなら盗んでおきたいテクニックです。そして、このドラマのキモは、帰宅したスマイリーが見せる一瞬の切り返しにあります。洗濯物を受け取りに出るという日常――つまり平時ですね――のただなかに、不審のタネを見つけて、手筋一閃! たった一言で相手を欺き、背後を取ってしまう。執拗で細かいディテイルだけでは退屈さに陥るところを、こういう機智が救うのでした。
 ミステリマガジンで邦訳された「水の上のパン」という小説は、スパイ小説でもなんでもありません。奨学金の給費生(成績優秀なのです)ながら、サンスクリット語と禅を専攻するという、浮世ばなれした男が、パン屋の女店員に思いをよせるも、言い出せないと、主人公に相談に来ます。主人公の指南する手段は、単に毎日店に通うだけ(だったのです。優等生くんがやったのは)でなく、相手に印象づけ、かつ落ちぶれていくように見せていくという巧妙な手段でした。ル・カレとしては、指南した方法が実を結んだのち明かされる、隠されていた人間関係と、その後の変化を書きたかったのでしょう。しかし、主人公が授ける計画は、まるで『寒い国から帰ってきたスパイ』の雛形でした。ツケでものを買うところまで同じですからね。
 ル・カレのこの二編は、人を欺くために企むという、スパイ小説のエッセンスを読み取りやすく示して見せたという意味で、参考になるものと思います。
 ル・カレと並んで、60年代のスパイ小説を牽引したのが、レン・デイトンでした。彼も短編のスパイ小説が見当たりません。ただし、一時期デイトンは戦争小説に傾いていたことがあって、そのころの短編が『宣戦布告』として一冊にまとめられています。さすがに、さきほど批判的に読んだ、戦時スパイ小説の緩さはありませんが、戦争小説として、特に目を引くものではありません。ロアルド・ダールの『飛行士たちの話』の方が、よほど読ませます。それでも、南米にセールス旅行にやって来たイギリス人セールスマンが、内線に遭遇するという、スパイ小説めいた話と思いきや、そのセールスマンの売っていたものが……という「セールスマンにはボーナスを」という愉快な一編がありました。
 こうして50~60年代のスパイ小説ブームを振り返るとき、短編ミステリには収穫がなかったことに気づきます。この連載の中で読み返したもののうち、唯一、そう呼べるのは、アヴラム・デイヴィッドスンのところで読んだ「臣民の問題」くらいのものでしょう。短編には、ミステリシーンを牽引するだけの力を、期待できなくなっていました。それでも、まだ、有力な作家が秀れた短編ミステリを書き続け、読者もそれを期待していたのでした。

※ EQMMコンテストの受賞作リスト(最終更新:2014年11月5日)



第4回創元ファンタジイ新人賞&第10回創元SF短編賞・贈呈式+トークイベント(9月2日)レポート


 去る2019年9月2日(月)、TKP飯田橋ビジネスセンターにおいて第4回ファンタジイ新人賞・第10回創元SF短編賞贈呈式およびトークイベントが行われました。

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 まずは贈呈式において、「サンギータ」『おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選』に収録)で創元SF短編賞を受賞されたアマサワトキオ氏と、『星砕きの娘』(東京創元社刊)で創元ファンタジイ新人賞を受賞された松葉屋なつみ氏に、小社社長・長谷川晋一より賞状と記念品の懐中時計が贈呈されました。

 贈呈式のあと、創元SF短編賞選考委員の大森望氏・日下三蔵氏とゲスト選考委員の宮内悠介氏、司会の編集部・小浜徹也が登壇し、トークイベントSF編の開始です。

* * *

■年刊日本SF傑作選の12年間と創元SF短編賞の10年間

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小浜
 〈年刊日本SF傑作選〉が今年で終刊となりますので、まずはその振り返り話を。
〈傑作選〉の始まりは、2007年の本格ミステリ大賞の2次会で日下さん大森さんのお二人が目の前に座っていたので、そのとき考えていたプランをふたりにお願いした、という裏話があります。編集実務はこの10年でどんどん大変になっていって。

大森 作品を選ぶこと自体はそうでもないよ。いろんな媒体から選んでくるのが面白かった。

日下 僕は最初は小説雑誌から選べばいいかなくらいに考えていたんですが、大森さんが30部の同人誌とかからも採ってくるから……これは負けていられないと(笑)、ぼくもいろんなところから採用しました。途中からはマンガ担当みたいな感じにもなった。

小浜 同人誌掲載作を採録するのは大変ですよ。一度は編集者の目を通っている商業誌とはちがいますから。
日下 SF短編賞について、10年間まとめての感想としては、やってみたら労力はかかるけど案外できるものだなと。それに、新人が出てくるとジャンルが活性化するというのが、ほんの数年で如実に見えてきましたね。

大森 当時は、ほかにSF短編の新人賞はなかったから、絶対にいけると思ってました。
 長編とちがって短編は、発表するたびに少しずつ名前を売っていくことができるのがいい。本にまとまるまで時間がかかるのがデメリットみたいにも言われるけど、読者を耕したところに本を出せるというメリットもある。

宮内 私は正賞をもらっていないのでその話は肩身が狭いんですが(笑)、そもそも傑作選に憧れて創元SF短編賞に投稿したので、傑作選がなくなるのはちょっと寂しいですね。SF短編賞で次から次へと出てくる後続の人たちの存在は刺激になっています。

大森 宮内さんは創元SF短編賞デビュー組の中では最初からどんどん書いた人の代表だよね。

宮内
 第1回の山田正紀賞をいただいたとき、「今しかない」と思ってたくさん送ったんです(笑)。スルーされたくないので、前の作品の返事がなくてもすぐ次の作品を送る、という感じで。

日下
 驚くほど早く本になったよね。


「サンギータ」で今年の正賞を受賞したアマサワトキオ氏が登壇

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小浜
 それでは今年の創元SF短編賞について。アマサワトキオさんは去年の受賞者の八島游舷さん(「天駆せよ法勝寺」)と同じく、「ゲンロン 大森望 SF創作講座」の受講生です。

宮内
 大森さんはゲンロンSF創作講座の受講生に対しては評価をマスキングしての参加でしたが、アマサワさんの「サンギータ」は満場一致でした。

小浜
 力のある作品ということだとそれぞれにあったんだけど、「サンギータ」はまんべんなくよかった。

大森
 今回、アマサワくんはゲンロンSF創作講座で評価のよかった作品を上から順に3本送ったんだよね。そのうち最終に残ったのが「サンギータ」。

小浜
 複数応募する人は多いんだけど、あまり推奨できない。もっとも、3本とも毛色が違うのを送ってきたのはえらいな、と思った。

日下
 似たような作品を複数送ってくると、一番デキの悪い作品で評価されますからね。逆だと思ってる人は多いけど。

大森
 その「サンギータ」は、傑作選に収録するにあたって、創元SF短編賞史上最大の改稿が行われたと。

小浜
 応募時の100枚から180枚に。これまでの最高だった高島雄哉「ランドスケープと夏の定理」(100→150枚)を抜いた。

アマサワ
 言われたところを足していったらそうなりました。時間的にも、ボリュームが増えるのを気にする余裕がなかったです。刊行後に傑作選に載った自作を読んだら文章の密度がすっかり変わっていて、「紙の本に載っている小説みたいだ!」と思いました(笑)

小浜
 最初にネパール仏教関連に突っ込みを入れたのは選考のときの宮内さんでしたね。チェッカーがひとり増えてありがたかった(笑)

アマサワ
 あれは調べて書きはしたんですが、あとでしっかり調べ直しました。

小浜
 お客さんから事前に質問をいくつかもらっていますので、ここでそれを。「どんな作家修業をしましたか」?

アマサワ
 ゲンロンSF創作講座というものがありまして……(笑) それ以前はSFは書いていませんでした。2本くらい長編を書いて、メフィスト賞に送ったりしていましたが、選考座談会で言及もされず(※メフィスト賞は編集部が直接決めて、その選考座談会が〈メフィスト〉巻末に掲載される)。

小浜
 「将来の野望は」?

アマサワ
 うーん……それほどたくさんSFを読んできたわけではないので不安はありますが、SFらしい路線でいい感じにいけたらと。

小浜
 「受賞作はどう発想し、どう書きましたか」?

アマサワ
 「サンギータ」は、クラーク「90億の神の御名」をバイオと組み合わせたら面白いかなと思って書きました。

小浜 あ、やっぱりそうだったのか。


「飲鴆止渇」で優秀賞を受賞した斧田小夜氏が登壇

宮内 斧田さんの応募作を読んで、とても志の高い方だと思いました。

小浜 
「飲鴆止渇」は、中国らしき国を舞台に、超兵器によるテロとその余波がふたりの親友のその後を分かつ、という話です。着想元は何ですか?

斧田 いやあ……海外によく行っていた時期に、行く先々でテロに遭遇するということが立て続けにあって。いつか書こうと思っていました。

日下
 おもしろかったけれど、エンターテインメント性で「サンギータ」に一歩譲った。どの方向に向かうかは今後しだいですが。

小浜
 文芸的な人物の組み立て方については基礎がちゃんとしている方だと思いましたね。

* * *

 引き続いて創元ファンタジイ新人賞のトークショーに移ります。選考委員の三村美衣、井辻朱美、乾石智子のお三方が登壇されます。

* * *

■創元ファンタジイ新人賞・総評

三村 それでは、第4回の総評からはじめましょうか。全体的にはどうでしたか?

井辻
 今年から応募枚数が800枚から600枚に減ったせいか、総じてまとまりがよくなっていましたね。それと、一から世界を構築するよりは、日本の古典などを参考にして展開する作品が増えて、むしろ読みやすくなっていました。

三村
 800枚だともてあまして、収拾できてない印象の作品は多かったですね。

井辻
 書くほうとしても全体を見通しやすく、世界の形を作りやすかったのではないかと思います。

乾石
 最終候補作はどれも仕上がりがよくて、構成・世界観・アイデアがすばらしかった。「私、負けた」と思いました。その中で松葉屋さんが頭ひとつ抜けていたのは、自分の考えや死生観、運命に関する考察、他人への共感性などをしっかり書き込んだ点ですね。

三村
 和風ファンタジイの場合、時代設定として平安時代を選ぶひとが多いけれど、松葉屋さんはちがいましたね。

乾石
 鎌倉か室町かな、武士が活躍する時代で、動きがあってよかった。登場人物がみんなはっきりしていて、特に女の子たちがなよなよしていないところも私好みでした。

三村
 今回はいわゆる「異世界ファンタジイ」的なものが少なかったですね。600枚だと設定を作り込むのが難しいのかな。私としては設定フェチ型というか、多少デキが悪くても設定自体に驚くような超弩級のものがあってもいいんだけど。

乾石
 どこの国でもない、けれどもしっかり世界構築されたものも読みたいですね。もっと世界を広げてほしいなと。

井辻
 松葉屋さんの作品について言うと、フォルムが大変よくできていた。『御伽草子』のように語り口がしっかりできている中に、現代的思惟を安易に入れない。古典をしっかり掴んでいるなと思いました。内容とフォルムが呼応してきれいに仕上がっているのがよい。そこに新機軸として宗教的なものを一本通して、新しいパースペクティヴがひらけてくる。


『星砕きの娘』で今年の正賞を受賞した松葉屋なつみ氏が登壇

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三村 松葉屋さんは第3回の最終候補(『フフキオオカゼ失踪事件』)につづいて、2回目での受賞ですね。

松葉屋
 そうですね。第3回のときはもっと手厳しく言われるんじゃないかと思っていたんですけど、わりと言及がなかったので、むしろショックで(笑)。今回はもっと言われてやろう、はじけてやろう、と考えて書きました。

乾石
 これは、モデルの時代は室町? 鎌倉?

松葉屋
 平安の終わりから鎌倉の初めくらい、武士が台頭してきた時代の東北地方を念頭に置いて書いたので、おそらくその印象があるんじゃないかと。

三村
 東北おもしろいですよね。古いものと新しいものが入り交じる。

乾石
 鬼が出る地、ですよね。

三村
 そういえば、最近ファンタジイの新人作家は鬼を出してくることが多いよね。松葉屋さんはなんで鬼にしたんですか?

松葉屋
 題材として東北を扱ったときに、やはり鬼の地であるので自然と……先行作品とはかぶってもいいや、というつもりでやりました。

三村
 人が鬼に転じるというイメージに惹かれるのかな。鬼に託したかったものとかあります?

松葉屋
 そうですね。人の持っている、普段は理性で抑えているような邪悪さ、みんなが持っていてあるときタガが外れて出てくるもの、などを書いたかもしれません。

三村
 ただ、ファンタジイにすることによって受け入れやすくなる反面、おぞましさが浄化されて綺麗になりすぎてしまわないか、それはファンタジイの危険なところではないかな……と思わなくもない。そうした意見への考え方を含めて、今後どのような作品を書いていきたいですか?

松葉屋
 当面のテーマとしては、人のどうしようもなさ、どうしようもない人たちを書いていきたいと思っています。ただ、おっしゃるとおり綺麗になりすぎるかもしれないけれど、リアルなものを見つめすぎて弱ってしまう、という面もあるので、逆に綺麗にすることで見られるようになる点もあるというか。あとは読まれた方々の判断でしょうか。

乾石
 松葉屋さんのおっしゃるとおりだと思います。一枚オブラートをかぶせることで、直視できないものを提示して、普段目を背けているものに目を向けてもらえたらと。
 ファンタジイは逃避文学だとよく言われますが、癒やしの文学でもあると思うんです。登場人物たちと一緒に旅をする中で、現実よりもオブラートにくるんだものに触れて、現実世界に戻る力を得てもらう。

* * *

 といったあたりで、ファンタジイ新人賞のトークショーもお開きに。
終演後は、恒例の懇親会をSF作家・中井紀夫氏経営の「Barでこや」で行いました。
第5回創元ファンタジイ新人賞はただいま選考中、新体制でおこなう第11回創元SF短編賞はただいま応募受付中(来年1月14日〆切)です。みなさまのご応募をお待ちしております。
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