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3月は(ちょっとだけ) パンク・ロックの月である。 | |
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ところが ――『傘の死体とわたしの妻』
一仕事終わった、土曜日である。金曜の夜中に原稿をメールで送り、ばったり倒れて、「フフンフーン……」と鼻歌だけ小声で歌い、寝て、翌昼過ぎにむっくりと起きあがった。復活。米を炊き、肉を焼き、野菜を茹で、タレをかけてどんぶりで食らう。映画でも見るかとようやく夕方、家を出た。 (2007年4月) | |
■ 桜庭一樹(さくらば・かずき) 1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題して刊行)で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。以降、ゲームなどのノベライズと並行してオリジナル小説を発表。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、さらに04年に発表した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価される。作風は多彩で、とりわけ閉塞状況におかれた少女たちの衝動や友情を描いた作品に独自の境地を見せている。東京創元社から05年に刊行した『少女には向かない職業』は、著者が満を持して放つ初の一般向け作品として注目を集めた。著作は他に『君の歌は僕の歌』『赤×ピンク』『荒野の恋』『ブルースカイ』『少女七竈(ななかまど)と七人の可愛そうな大人』『赤朽葉家の伝説』など多数。エッセイ集に『桜庭一樹日記』がある。 |
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3月は(ちょっとだけ) パンク・ロックの月である。 | |
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「ビフテキや玉葱と較べたら、愛情なんてなんであろう?」 あなたってものは存在しない。あなたはただあなたが演じる無数の役割の中だけに存在するんです。いったいあなたって人間がいるのか、それともあなたは自分が扮する他人を容れるための器でしかないのか、と僕はよく不思議に思ったんです。空っぽの部屋へ入ってゆくあなたを見ると、僕はときどき、いきなりドアを開けてみたいと思いました。でも、もしやそこに誰もいないんじゃないかと思うと、ぞっとしたもんです ――『劇場』
急用があって、東京創元社に電話する。SF班K浜氏が出たので「桜庭です。いま電話があって、こっちでAが、あっちでBが上がっていて、どちらか片方しかだめだそうです。それで、自分で選んでくれって言われてですね」「えー、そうだなぁ。でもどちらかといえばAじゃないの、長いし」「ええ、わたしもそう思って、Aって答えました」「なんだよ、自分で決めたって報告かい。相談かと思って真剣に考えたのに。そういうことは先に言いなさい」「す、すみません、つい、時系列に沿ってだらだらしゃべっちゃいました。結論を見せてから回想シーンに入ればよかった。……えっ、なに?」「薙刀二段が、出島に用があるって。いま替わる」「もしもし、Fです。シャーリイ・ジャクスンお好きですか?」「好きだー!」 |

3月は(ちょっとだけ) パンク・ロックの月である。 | |
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桜庭一樹 | |
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もし愛と生の両方をねだったりしていたら、彼はまちがいなくすみやかにくたばっていた。 川はくさかった。広場はくさかった。教会はくさかった。宮殿もまた橋の下と同様に悪臭を放っていた。百姓とひとしく神父もくさい。親方の妻も徒弟に劣らずにおっていた。貴族は誰といわずくさかった。王もまたくさかった。悪臭の点では王と獣(けもの)と、さして区別はつかなかった。王妃もまた垢まみれの老女に劣らずくさかった。冬も夏も臭気はさして変わらなかった。十八世紀においては、バクテリアの醗酵に限りがなかった。建てるのであれ壊すのであれ、のびざかりであれ、人生の下り坂であれ、人間のかかわるところ臭いなしにすむことなど一つとしてないのだった。 神はくさい。ちっぽけな、こすっからい悪臭野郎だ。神は欺されている。あるいは神自身が食わせ者だ。ちょうど自分と同じ、このグルヌイユと変わらない――いや、もう少々できの悪い食わせ者! 神の火を盗みとった。 ――『香水 ある人殺しの物語』
週刊ブックレビューの収録があって、NHKに行くことになる。地図を見たら道に迷いそうな気配に満ちていたので(危険な地形独特の、紫の狼煙のようなものが地図から立ち上っているのを幻視した。この炎は、方向音痴の人間にしか視えない!)、はやめに出かける。案の定、ぐるぐる迷う。住宅地でしゃれたママさん二人組に道を聞いて、助けてもらう。なんとかたどり着いた。 わたし「夏木マリみたいな人です」K島氏自身には言えないが、じつはこんなタイミングで登場した。ごめんよ……。彼のどこがどんなふうに夏木マリみたいなのかを説明する時間がなかったので、このことは謎のまま、NHKの西口玄関に、幻のように残してきてしまった。 ヘアメイクさんに顔にいろいろ塗ってもらって、打ち合わせをして、桜餅をご馳走になって、それからスタジオで自分の新刊『赤朽葉家の伝説』についてしゃべった。 収録が無事に終わって、新宿ルミネエストのレストラン街にて、K島氏と春のお鮨セットを食べ、喫茶店に移動してでっかいケーキを二個ずつ食べながら、ぺちゃくちゃとしゃべった。最近わたしは近所にできたシネコン(バルト9)に、住んでるのかというぐらい入り浸っているので、いちばんおもしろかった映画「パフューム」の話をした。「あ、それってもしかして、ラスト近くの何百人もの○○シーン(自粛)が話題になってるやつですか」「いや、そのシーンもびっくりですけど、ラストシーンがさらにびっくりです。だって、みんなで主人公を○○ちゃった(自粛)んですよ! そんなこと予想します? 大人になって、だいぶすれてきたなぁ、もう生半可な展開では驚かないや、とか思ってたんだけど、久々に“全力で遁走する映画においていかれた”体験でした。見てください、怪作ですから」と力説する。と、K島氏が首をひねり「そういえば、その映画の原作、読みましたよ。だいぶ前にけっこう話題になってたはず。でも、そんな○○ちゃうオチだったかな。覚えてないなぁ」と言う。 気になったので、帰りに閉店直前のあおい書店(23時まで)に飛びこんで、原作『香水 ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント/文春文庫)を買う。 時は十八世紀後半。パリの下町で、天才肌のおぞましい男が誕生した。その名はグルヌイユ。サド侯爵やナポレオン・ボナパルト、革命家サン・ジュストと違って、後世に名が残らなかったのは、彼の天才が「匂い」というこの世に痕跡を残さず消える分野のものであったからである。しかし、グルヌイユは同時に、恐るべき殺人鬼でもあった……! おもしろい。ふるい小説の雰囲気と、現代風のサイコサスペンスと、パンク・ロックみたいなリズムの悪態と、みんな大好きなエログロが混ざって、ワーッとなっていて、なんとなく『シャルビューク夫人の肖像』(ジェフリー・フォード/ランダムハウス講談社)を読んだときの高揚感を思い出す。どきどきしながら、一緒に神を愚弄して、絶望して血まみれになりながら、ラストシーンにワーッとなだれ込む。……あっ(赤面)。映画ほどの遁走感(?)はないものの、やっぱり、ひっそり○○られちゃってた。K島氏にメール。「読み終わった。グルヌイユ、もりもり○○れてましたー」安心して、風呂に入り、寝た。 |
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