もう一度きちんと 活躍させてやりたい。 | |
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予想外の反響から生まれた、 再会のその後の物語。 07年11月刊 『HEARTBLUE(ハートブルー)』 | |
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小路幸也 | |
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のっけから、すいません、と謝りますが、ここの話は『HEARTBLUE(ハートブルー)』の前作である拙作『HEARTBEAT(ハートビート)』を読んでいただいている、という前提で話を進めさせていただきます。あとがきなんてものを書くのは本当に初めてでして、じゃあいろいろといいわけさせてもらおうかな、なんて考えたのですがそれもまぁ男らしくない。ならば、もう少し続けさせてもらう予定のこの『HEARTシリーズ』(今考えた)がどういうふうに出来上がったのかを解説させてもらえばいいかなと。 委員長と巡矢。 この二人の物語を考えたのは、実はもう十年ぐらい前です。もう記憶がおぼろげになっているんだけどたぶんそれぐらい。まだデビュー前、某新人賞への投稿を続けていた時期に〈十年後に再会の約束をする高校生〉という前作『HEARTBEAT』のベースそのままのネタで書こうと思いつき、筆を進めました。 完成した物語は、この二人にヤオが絡む、〈過ぎ去った青春のホロ苦いけれどもさわやかなラブストーリー〉でした。委員長である原之井は●●ではないし、巡矢は世界で活躍するCGデザイナーではないし、ヤオは●●されてなんかいない(すいません、一応未読の読者のためにそこだけは伏せ字で)。 前述の某新人賞。既にそこの最終候補の常連になっていた私は編集者さんとも馴染みになっていて、事前に読んでいただきました。結論としてはもう少し練り直した方がはるかにおもしろくなるだろうということでお蔵入りに。 その後デビューして、東京創元社さんからお話をいただいたときに、彼らのことを思い出しました。 委員長と巡矢を、もう一度きちんと活躍させてやりたい。 再度プロットを練り直して担当になっていただいたK島さんのオッケーもいただき、完成したのが前作『HEARTBEAT』でした。 まぁほとんど話題になることもなかったんですけど、読んでいただいた方の中で何故か〈巡矢〉に人気が集中してしまったんですね。これはまったく予想外でした。 次作も〈委員長〉が主人公で〈巡矢〉はサブで行こうと思っていたのだけど、なるほど〈巡矢〉を中心に据えるという手もあるか。そう考えると、その方が素直にさらにその次へと話が繋がるな、というわけで、生まれてきたのが〈巡矢〉を主役に据えた新作の『HEARTBLUE』です。 何せ●●が元の大ネタになってしまっている物語ですので、その部分をどう処理するかで何度かやりとりしました。少し情緒的かつ前作の後日談的な部分に走りがちだった僕のプロットを、K島さんからの提案でよりシンプルな方向にしようということになり、互いに苦い思いを抱いた警察官と巡矢が二人で事件を追うという物語に整理されました。 実は『HEARTBEAT』のラストのページで、新たな事件を示唆する電話が掛かってきていて、それがシリーズ第二作になる予定だったんですけど、そこへのブリッジとしてこの『HEARTBLUE』が生まれたというわけです。なので、『HEARTBEAT』のラストページを読んで、この事件が次回の物語に違いない! と思われた方すいません。あの事件は、さらに次回で展開しようと思っています。あくまでも予定ですけど。 (2007年12月) | |
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この作品は、 どうしても埋もれさせたく なかったのです。 | |
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アルチュール・ランボーの詩「母音」の 強烈なインパクトから生まれた、 鮎川哲也賞受賞作家、 渾身の本格ミステリ。 07年11月刊 『ランボー・クラブ』 | |
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岸田るり子 | |
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このコーナーには以前、第22回配本の『出口のない部屋』で書かせていただいたことがあります。前回の作品は一つの部屋に閉じこめられた三人の男女の謎に迫る、という閉塞的な設定でしたが、本書は、色に関わる謎が核となっていて、アルチュール・ランボーの「母音」という詩が連続殺人事件の予告に絡んでくるミステリです。 「母音」という詩は、その昔、初めて読んだ時、アルファベットを色に置き換えるという斬新な発想と言葉の選び方に強烈な印象を受け、そのまま私の心に刻み込まれていました。 私は、思春期から両親の都合上渡仏し、フランスで教育を受けながら、その国での将来は期待できない、いわば異邦人として過ごしました。 舞台は今回も京都。家から徒歩一、二分のところにある「妙心寺」という禅宗のお寺も登場します。 ランボーの詩というだけで、面倒だと思わないでください! 謎解きの展開を大いに楽しんでいただければ幸いです。 (2007年12月) | |
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私たちの「文化」への態度を、 私はなるべく茫漠としたまま、 輪郭のはっきりしないままに 考えたいと かねがね思ってきました。 | |
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『天才たちの値段』で 鮮烈な印象を与えた新鋭が贈る、 あたたかなタッチで描かれた愉しい連作。 07年10月刊 『人形の部屋』 | |
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門井慶喜 | |
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単著としては二冊目の単行本になります。 何しろ前作『天才たちの値段』(文藝春秋刊)ではずいぶん大きな名前を連ねました。たとえば、
ボッティチェッリ我ながら、まことに豪勢この上ない。ところで今回の『人形の部屋』を書くに際しては、はじめから正反対の方向を目ざしました。無名というか無銘というか、より私たちの日常生活に密着した文化財とつきあおうとしたのです。否、それどころか、あんまり生活に密着しすぎて、もはや文化財とは呼べなくなっているような材料をも。すなわち、
フランス人形など。 ただし、これは私――作者――が気分転換を欲したせいではありません。ましてや、いわゆる「新たな読者を掘り起こす」ことを狙いとしたわけでもない。そういう意図もまあ皆無ではないけれど、結局、いちばん大きな理由は、私がそもそも人間の文化というやつを上記の両極端のうちに存在すると考えている、というところにありました。 私たちは美術館へ行く。そこでは世界の名だたる名作とじつにあっさり対峙することができます。私たちは家へ帰る。帰れば戸棚には旅行のおみやげのひとつも置いてあるでしょう。ところが私たちが、そのどちらに対しても、
「きれい」とか、 「いいね」とかいう言葉を発するのは、よく考えると不思議なことでした。モネの風景画と、九谷焼の花瓶とが等しく「きれい」であるはずがない。からです。両者は質的にまったく別のものであり、同列に評価するのは無理があるからです。しかしともかく私たちの口はそう言葉に出すのだし、出して疑うことを知りません。 これは趣味の分裂にほかならない、不統一にほかならないと決めつけると悪いことのようですけれど、どうでしょう、あるいは趣味の幅がうんと広いと積極的に評価すべきと言うこともできます。どちらを採るかは人それぞれでしょう。どちらにしても、二十一世紀に生きる私たちの「文化」に対する態度がおよそこういう茫漠たる、輪郭のはっきりしないものであることは、誰もが認めざるを得ないのではないでしょうか。 そういう私たちの「文化」への態度を、私はなるべく茫漠としたまま、輪郭のはっきりしないままに考えたいとかねがね思ってきました。というか、その一部分をむりやり明確にして「これが文化だ」と決めつけることは避けたかった。世界はわざわざ狭くするには及ばないからです。 本作の主人公、八駒敬典とつばめの父娘は、お料理を作ったり、パソコンを見たり、本を読んだり、言い争ったり、泣いたり、笑ったり、……いろいろしながら、こういう点ではまさしく二十一世紀の日本人の典型でありました。しかしまあ、そんな小難しいことは抜きにしても、彼らとの血のかよった人間どうしのつきあいから、私はさまざまなことを学んだ気がします。もしも私が小説の女神に感謝を捧げるとしたら、それは、彼らと出会わせてくれたことに対して以外ではあり得ません。 書き終えたいまは、ただただ八駒家の加餐を願うばかり。 (2007年12月) | |
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