Webミステリーズ!

〈Webミステリーズ!〉は、ミステリ、SF、ファンタジイ、ホラーの専門出版社・東京創元社が贈る月刊ウェブマガジンです。毎月5日ごろに更新しています。  創刊は2006年3月8日。最初はwww.tsogen.co.jp内に設けられました。創刊時からの看板エッセイが「桜庭一樹読書日記」。桜庭さんの読書通を全国に知らしめ、14年5月までつづくことになった人気連載です。  〈Webミステリーズ!〉という名称はもちろん、そのころ創刊後3年を迎えようとしていた、弊社の隔月刊ミステリ専門誌〈ミステリーズ!〉にちなみます。それのWeb版の意味ですが、内容的に重なり合うことはほとんどありませんでした。  09年4月6日に、東京創元社サイトを5年ぶりに全面リニューアルしたことに伴い、現在のURLを取得し、独立したウェブマガジンとしました。  それまで東京創元社サイトに掲載していた、編集者執筆による無署名の紹介記事「本の話題」も、〈Webミステリーズ!〉のコーナーとして統合しました。また、他社提供のプレゼント品コーナーも設置しました。  創作も数多く掲載、連載し、とくに山本弘さんの代表作となった『MM9―invasion―』『MM9―destruction―』や《BISビブリオバトル部》シリーズ第1部、第2部は〈Webミステリーズ!〉に連載されたものです。  紙版〈ミステリーズ!〉との連動としては、リニューアル号となる09年4月更新号では、湊かなえさんの連載小説の第1回を掲載しました(09年10月末日まで限定公開)。  2009年4月10日/2016年3月7日 編集部

総務部業務レポート ~編集部新入社員採用頂上作戦~


◆頂上作戦① 《総務部業務レポートとかいって、また競馬ですか?》

WEBミステリーズ!をお読みの皆さまこんにちは、総務部のIです。今回で4度目の登場となりました。よろしくお願いします。

この総務部業務レポート、過去3回に関しましては、いやいやいや、WEBミステリーズ!において総務の人間の話なんて誰が読むのよ、どうせ読まれないなら何書いてもいいでしょうよ~ などと、半分投げやりな姿勢・・・・というか態度・・・・というか、まあそんな感じで、こちらの繁忙期と原稿の締切りが重なったことへの愚痴だとか、あとは競馬のこと(!)なんかを書いてお茶を濁していたんですね。

写真① (1)

クラシックシーズンたけなわですなー

だがしかし!
とうとうこの総務部業務レポートも、絶好のテーマとタイミングで執筆できる千載一遇のチャンスが巡って来たんですよ~
実は東京創元社は、2019年4月現在、編集部社員の採用募集を実施しているのです!まさに進行中です!エントリーシート絶賛受付中です!
当然この仕事、担当は総務部っすよね~、中心だよね~、という訳で、今回は当社における新入社員採用活動の全貌(?)をこちらにレポートいたします。
それによって、今回の採用活動に少なからぬ好影響を与えることが出来る(はず)と勝手に信じてます……


◆頂上作戦② 《東京創元社の編集部では若い力を必要としてます!》

今回、当社が募集するのは編集部員です。出版社の命運を握るのは、当然ながら刊行物=コンテンツであります。良い刊行物=コンテンツを持続的に供給するためにはやはりある程度の人手が必要ですよね・・・・という、攻めの?姿勢での求人ですね。
そうした議論を踏まえつつ、一方で社内の人員構成における年齢層に偏りが出来ないように、今回に関しては新卒の方(2020年3月卒業見込み)を中心として募集してみよう、という方向となりました。

写真②

求人サイト掲載用に撮影される若手社員(当社比)の面々。
入社希望のみなさま、入社後はこちらの若手たち(相対的な)が、みなさんを優しく指導します。


◆頂上作戦③ 《応募総数確保を命題に、大手求人サイトへ討って出る!》

さて、大まかな方向性は決定しました。次に具体的な採用スケジュールの確定と、求人情報の告知を行わなければなりません。
スケジュールに関しては他の出版社の採用日程なども考慮に入れて割とすんなり決まりましたが、情報の告知、つまり求人広告については少し議論となり、結果、今回のターゲット層を踏まえて、初めて大手求人ナビサイトでの掲載、と決定しました。
その中でも出版社の利用が多く、書籍広告でお付き合いのある代理店様からの紹介もあった「マイナビ」への掲載が決まりました。

写真③

実際のサイト掲載用の取材はこんな感じで進みました。

写真④

「マイナビ」のみなさま、お世話になります!


◆頂上作戦④ 《まだ途中経過・・・無事に採用成功という頂上へ》

我が東京創元社は他の多くの版元・出版社と同じく、規模は大きくなくて、少人数で・・・・いや、少数精鋭でやっている会社なのです。
ですので、例えば毎年、学卒者を新規採用するなんてことは無理でして、欠員が出た場合に補充の人を採用する、ということが多かったです。
おかげさまで離職者もそれほど頻発しませんので、社員採用というのは日常的な業務ではないかもしれません。
普段、手を取られないのは良いことですが、逆に仕事としての取り組みが無いとノウハウというべきものが蓄積されず、知識のアップデートもままなりませんね。今回の社員募集については進行中であり、まだまだ大変なこともありますが、我々にとっても貴重な経験となってます。
就活中のみなさまはより大変な毎日だと推察します。この長い戦いの日々を我々と一緒に?がんばっていきましょう!

写真⑤

聳え立つ?当社ビル。竣工より○十年、歴史を刻むこの建物で、みなさまをお待ちしております!

写真⑦

できるだけたくさんの方にご応募いただけるよう、モデル、カメラマンともにがんばりました!


最後になりましたが、採用に関しましての詳細はこちらをご確認ください。

採用情報 | 東京創元社

他の産業同様、出版産業も変化が著しく、そんな状況ですので、やはり新しい力で、未だ見ぬ作品を送り出す担い手が必要なのです。
よし、いっちょ出版受けてみるか、本を作ってみるか、と考えているあなた、是非我々と一緒に「仕事」をしましょう!

大勢のみなさまのご応募をお待ちしております!

「レイコの部屋」傑作選 vs.永嶋俊一郎さん(編集者)


隔月刊でお届けしている『ミステリーズ!』に不定期連載中、編集部Fが出版業界のプロフェッショナルからいろいろ知識を授けてもらうインタビューコーナー「レイコの部屋」より、よりぬきで『Webミステリーズ!』に再掲いたします。
 
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 落ち込んだり呪ったりテレビの画面から抜け出たりしていますが、私は元気です。
「出版界の明日を担う若者に、すぐに役立つ実践的知識とサバイバリズムを叩き込む」を標語にお送りする本コーナー、とうとう看板に偽りなしのお客さんを招きました。
 以前当コーナーに軟禁した書籍編集者のお二人――戸川安宣(とがわやすのぶ)さんには70年代の、藤原義也(ふじわらよしや)さんには80年代の出版事情について伺いましたが、私の崇高な意図がインタビューに反映されたかはともかく、今回「90年代の出版」に携わってきた方にお話を伺うべく、慎重に犠牲者を選出しました。文藝春秋で翻訳ミステリを中心に書籍を担当されている、永嶋俊一郎(ながしましゅんいちろう)さんです。
「ミステリーズ!」をお読みのよく訓練されたミステリ読者の方にはいまさら説明は不要かも知れませんが、スティーヴン・キングやジェフリー・ディーヴァー、デイヴィッド・ピース、ボストン・テランにジャック・カーリイといった海外作家の本を手がけているハードコア編集者です。ところで、BABYMETAL が好きって本当ですか?

  レイコの部屋 第16回
    vs.永嶋俊一郎さん(編集者)

 ――永嶋さんは1971年生まれということですが、失礼ながら印象として、もっと目上の方だと思っていました。
永嶋さん(以下永)「大学でミステリ研究会に入会したんですが、当時は毎週のようにOBが遊びに来ていたので、60年代生まれの先輩と話すことが多かったせいではないでしょうか」
 ――文藝春秋に入社されたのは90年代前半ですよね。もうバブルが過ぎ去った頃でしょうか。
永「ちょうど端境(はざかい)期ですね。僕の一つ上が、バブルを享受した最後の世代でしょう。内定が決まると、辞退されないようゴージャスな旅行やら何やらに連れて行ってもらう、みたいなのは僕らの一個上の世代まででした。僕は出版社を含め10社ほど受けたんですが、人事は意外とよく見ているのか(笑)、普通の会社は内定が取れず、結局文藝春秋に入社しました」
 ――では、もともと編集者志望というわけではない?
永「いや、もちろん漠然とは志望してましたが、決断したのは就職活動をはじめる半月くらい前でしたね。入社してから営業部に三年いまして、そのあと『オール讀物』に移動して2年経ち、98年から翻訳の部署に配属されました」
 ――『オール』時代、どんな作家さんを担当されていましたか?
永「高橋克彦(たかはしかつひこ)先生など、ベテランの作家さんの原稿を頂くことが多かったです。あ、野坂昭如(のざかあきゆき)先生がいた」
 ――その後、翻訳を担当されることになって……最初に作られた本って、たしかヘレン・ダンモアの『海に消えた女』(レイコ注・大傑作である)ですよね?
永「またニッチなところを突いてきますね(笑)、隠れた良作ですよね。あれは先任者の引き継ぎで作った本ですが、最初ではないです。異動してから半年くらい経った頃につくった本だと記憶しています。異動して一番最初に企画として出したのがデニス・レヘイン(ルヘイン)だったのはよく憶えてます。権利が空いているかエージェントに聞いたら、すでに角川書店さんが権利を買ってしまってましたが(笑)」
 ――『スコッチに涙を託して』?(探偵パトリック&アンジーシリーズの第1作)
永「ええ。まだ Lehane の読み方すらわからなかった頃ですね。自分の企画で最初に本になったは、フィリップ・ナットマンのゾンビホラー『ウェットワーク』。あと、初めて出張で行った海外のブックフェアで見つけたロブ・ライアンですね」
 ――『アンダードッグス』の! 大好きですよ。アウトローたちと児童文学のモチーフをクロスオーバーさせる作風で、『アンダー~』『不思議の国のアリス』とマンハント、『9ミリの挽歌』『くまのプーさん』と復讐譚、『硝煙のトランザム』『ピーターパン』と人身売買! いやー良かったなあ。
永「冒険小説としてもしっかりしていますしね。あの頃は一番冒険小説が不遇のタイミングでしたから、そういう意味でも、こういう試みの作品は、今紹介されたほうが真っ当に評価されたかも、という気もします」
 ――ブックフェアのお話が出ましたが、いつもどのように出版する本を選ばれるんでしょう?
永「翻訳エージェンシー(レイコ注・国内にあるエージェントが、海外で見つけてきた期待の作品を出版社に売り込み、編集者は作品を検討して、出版したいと思ったらオファーを出します。もちろん他の出版社とオファーがぶつかることもあり)経由で紹介されたものが六割以上でしょうか。ブックフェアでは、膨大なカタログから出版社・権利者が選んだ本が紹介されますが、当然、向こうが紹介しない本も色々ある。そういうものの中にも日本で売れる可能性のあるものはきっとあるので、現地の書店で見つけてぴんときた本を打ち合わせ時にリクエストすることもあります」
 ――書店だと、ベストセラーリストにないものも直に見られますし、本の佇まいを確認できますね。そういった作品で、実際に出版に至ったものを一冊挙げてください。
永「マックス・ブルックス『WORLD WAR Z』です」

WORLD WAR Z 上 (文春文庫)
マックス ブルックス
文藝春秋
2013-03-08


 ――またゾンビか!
永「だって好きなんですものゾンビ(笑)。なのでロンドンで個人的な趣味で買って、ブックフェアのあるフランクフルトまでのあいだに読んだのですが、かなり内容がしっかりしている。で、ブックフェアで扱いのあるエージェントと面談したら、カタログには載ってるのに案の定ひとことも説明しやがらない(笑)。それで安値で買えたんですが、正直、ゾンビ小説がちゃんと受けるかどうか自信はありませんでしたね。本当に個人的趣味で出しちゃったわけです。ところが出してみれば映画やゲーム、マンガやラノベなど近接する層のマニアが予想以上に注目してくれました」
 ――そういえば、P・G・ウッドハウスなどの古典作品も担当されていましたが、もともとお好きだったんですか?
永「ウッドハウスは企画の持ち込みがあって……そもそも別の件の売り込みだったかな、それで話しているうちにウッドハウスにめちゃくちゃ通暁(つうぎょう)している方だとわかって、『やりましょう』となったんじゃなかったかなあ。その頃はウッドハウスが一冊も手に入らなくなっていた時期なので、これも僕が個人的に読みたかったんですよ。でもノワールやスプラッタパンク・ホラーとちがって、僕自身はウッドハウスの全容などまるでわからないから、自宅の原書本棚から出して企画する、というわけにはいかない。そんなところにウッドハウス通で翻訳も上手なかたがやってきたわけですよ。単行本を企画したら、刊行の2、3か月前に国書刊行会からもウッドハウスが出ることを知ってびっくりしました」
 ――無版権だとそういう事故が時折ありますよね。こわい。
永「ただ、それでお客さんを食い合ったというマイナスの感覚はないですね」
 ――はっ、そういえば90年代の出版事情を聞くという大義を見失うところでした。98年より翻訳の部署に移られたということで、ちょっと時代は下ってしまうのですが……この頃何が流行(はや)っていましたっけ。リーガルサスペンスとか?
永「リーガルはもうちょっと前ですね。94年にアンドリュー・ヴァクス『凶手』が、96年にノワール隆盛のきっかけとなったジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』が刊行され、同年、国内では馳星周(はせせいしゅう)さんの『不夜城』が高く評価されて、一部の人がノワールに注目し始めた時期だったかと」
 ――あれ、ヴァクスは『赤毛のストレーガ』『ブルー・ベル』もう書いていましたよね。
永「ええ。ハードボイルドというか、小鷹信光(こだかのぶみつ)さんの仰(おっしゃ)るところの〈ポスト・ネオ・ハードボイルド〉として高く評価されていましたね。ヴァクス、そしてジョナサン・ケラーマン。まだノワールというジャンルはそれほど注目されていなかった」
 ――90年代後半の「このミステリーがすごい!」のベストテンを見ているだけで結構面白いですね。ノワールでいうとデイヴィッド・ピースが99年デビュー、2001年にトンプスン『ポップ1280』がこのミス1位、そして02年に永嶋さんが担当されたボストン・テラン『神は銃弾』がこのミス1位にランクインします。
永「2000年前後の翻訳ミステリは割とカオティックでしたよ。03年のこのミス1位はジェレミー・ドロンフィールド『飛蝗(ばった)の農場』でしたし」
 ――90年代は『薔薇の名前』に始まり、『策謀と欲望』『骨と沈黙』など巨匠の大作、あるいは『ストーン・シティ』『シンプル・プラン』など大型新人が満を持して一位を取るという印象があったのですが。
永「その後のゼロ年代は、いわゆる巨匠不在の時代だったように思います。若いところではディーヴァーがいましたが、キングもちょっと方向が変わって、エルロイはお休みをしていて。『翻訳ミステリはしんどい』と言われるようになったのもこの時期で、一度『このミス』ベストテンに入った作品を、属性ごとに振り分けて検証してみたことがあります。印象的だったのは、『冬の時代』の高まりがクラシックミステリのランクイン作品数の増加と相関していたことです。僕もマニアなので自戒をこめて言えば、評価軸がマニアックになりすぎたんでしょうね。
 バークリーの『第二の銃声』『最上階の殺人』といった作品は本当に面白かった。僕も、世界探偵小説全集は全巻、書庫の最良の場所に並べてます。ただこれは、幻の名盤の『紙ジャケ再発』や『リマスター盤』みたいなもので、それをふつうにミステリを読んでいるひとが買うかというと土俵(どひょう)がちがってくると思うんです。そこを業界にいる僕たち自身が見誤ったと思う。藤原義也さんの仕事の凄さを踏まえて、じゃあ俺たちはどういうふうに海外ミステリを推してゆくのか、シーンを持続可能に発展させていけるのか、というのに無自覚だったと思いますね。まあ、この時期に大型の海外作家がいたかというと、それも難しいですが……良い作家はいても、世代を背負える作家はどれだけいただろうかと。
 ――地味に良い作家、というのはやはりその言葉通りになってしまう。
永「また、一方で98年ごろから、各社の翻訳編集者も世代交代がそれぞれあったので、バブル期の遺産――たとえば高額の前払い金(アドバンス)で取得された作品や話題作とはまた違う、編集者が自分で選んだ作品が紹介されはじめた時期でもあったと思います。また、この頃からインターネットが発達し、Eメールで連絡が簡便化されたことや、海外の情報がリアルタイムで届くようになってだいぶ変わったと思います」
 ――98年から数えると、17年近く翻訳作品を担当しているわけですよね。累計……
永「年間で10冊くらい担当しているので、200冊前後ですかね」
 ――その中で、ご自身にとって転機となった作品と言えば、どれでしょうか。
永「初期の仕事としては、やはり『神は銃弾』でしょうか」

神は銃弾 (文春文庫)
ボストン テラン
文藝春秋
2001-09-04


 ――『神は銃弾』はその散文詩的な書き方も含めて、すごいなあと思いました。どういう出会い方をしたんですか?
永「前任者がリクエストだけ出していたのを、何か凄そうと思って買った……はずです。田口俊樹(たぐちとしき)さんの訳が好きだったので翻訳をお願いしたんですが、訳稿を頂いて読むと衝撃的でしたね。プロットはシンプルなのに、ものすごく……変な文章としか言いようがない(笑)」
 ――本作りやゲラ作業は大変でしたか?
永「文章の細部をブラッシュアップするご相談はしました。テランは、悪文なんですよ。でも、そこに独特のパワーがある。そういう悪文性を日本語にも残しつつ、そのなかのカッコよさも出してゆく。その点で田口さんは見事に応えてくださったと思っています。僕はむしろ『もっとやっちゃって大丈夫っすよ』みたいに田口さんをけしかけた、みたいな感じですね。テランは『虎よ、虎よ!』じゃないですけど、視覚と触覚とか、感覚を入れ替えるような手口で直喩(ちょくゆ)表現をしたり、とにかく不思議な書き方をするので、それをつかむまではなかなか難物でした。まあでも、ノワールで一点突破するということで、本作りに迷うことはなかったです」
 ――テランの名前が出たところで、同時期にめきめき評価の上がったディーヴァーの話も伺いたいです。
永「僕は〈リンカーン・ライム・シリーズ〉7作目の『ウォッチメイカー』からの担当ですね」
 ――2010年来日の際、アテンド(レイコ注・えーと、投げやりに言うと同伴出勤みたいなもの)されたと聞いていますが。
永「めちゃくちゃいい人でしたよ。来日中も、ほぼ夕方にはホテルに帰って執筆していました。銀座の三越(みつこし)にお買いものをつきあったら、ヘンケルの包丁や日本酒の枡(ます)を買い求めていました」
 ――だから『ゴースト・スナイパー』には貝印(かいじるし)の包丁で人を殺す暗殺者が出てくる(笑)。他にお会いになった作家さんで、印象的な人といえば?
永「エルロイには二度会いました。最初はエージェントの家に行ったら引き合わせられて、二度目はインタビューのときでした。すごく大柄で、良い声をしている」
 ――やっぱりヤバそうでした?
永「劇場型というか、どこまで素かわからない。面白い人でしたが、かなり自分のキャラクターに対して意識的だと感じました。皆の考えるジェイムズ・エルロイを演じている、みたいな」
 ――前に同僚と話したとき、『キラー・オン・ザ・ロード』で二人の殺人鬼が出会うのが物語のページのちょうど半分のところで、すごく構造を意識している作家と指摘されてびっくりしたのですが。
永「よくわかります。ちょっとパラノイア的なところがある。小説も、アウトラインを数百ページつくって、それにきっちり従って書いているようです」
 ――エルロイはいつから担当を?
永「『ビッグ・ノーウェア』の文庫化からで、単行本で一から担当したのは『わが母なる暗黒』が最初です。『ホワイト・ジャズ』の文庫化は特に思い入れがありますね」

ホワイト・ジャズ (文春文庫)
ジェイムズ エルロイ
文藝春秋
1999-03-10


 ――『ホワイト・ジャズ』は記号が入り乱れていて、大文字やイタリックが本文に鏤(ちりば)められている、きわめて特異な文体で書かれています。日本では、冲方丁(うぶかたとう)さんがこの文体を敷衍(ふえん)して書かれたりしていますが、海外ではどうなんでしょう。
永「表面上はわからないですね。デイヴィッド・ピースは意外とエルロイとはスタイルが違っていて、強(し)いて言うならケン・ブルーウンとか。でも、エルロイもジャズ文体は『ホワイト・ジャズ』以外ではほぼ使っていませんね。『アメリカン・デス・トリップ』ではちょっと使っているけどだいぶニュアンスは違っているし。本人も『ジャズの文体は一回きりだ』といっています」
 ――もうすこし新しい年代の話もしましょうか。
永「2010年前後で印象的なのは、やはりトム・ロブ・スミス『チャイルド44』とスティーグ・ラーソン〈ミレニアム〉という怪物ですね」
 ――一方は旧ソ連時代の幼児連続殺人で、もう一方は北欧ミステリ。今までだったら絶対売れないパターン認定です。
永「実際、『チャイルド44』は共産主義時代の旧ソ連、しかも今更シリアルキラーということで敬遠されたらしいです」

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
トム・ロブ スミス
新潮社
2008-08-28


 ――でも、永嶋さんも版権取得に動かれたんですよね?
永「(即答)だってソ連で連続殺人っていったら完全チカチーロじゃないですが」
 ――看過できない(笑)。
永「なにしろチカチーロですから(笑)。もちろん、冒険小説としても優れていると思ったので。結局新潮社さんが取得されました。ラーソンは小山正(おやまただし)さんから世界で話題になっていると聞いていたので、エージェントに問い合わせたら、こちらも早川書房の社長さんがヨーロッパでもう権利取ったと言われた(笑)」
 ――ピエール・ルメートル『その女アレックス』の話もしないと。一応補っておくと、「週刊文春2014年ミステリーベスト10」「IN☆POCKET 文庫翻訳ミステリー・ベスト10」「ミステリが読みたい!」本屋大賞翻訳小説部門でそれぞれ一位となり、近年の翻訳作品としては破格の55万部(2015年10月当時)を超えたモンスター級の文庫です。

その女アレックス (文春文庫)
ピエール ルメートル
文藝春秋
2014-09-02


永「個人的にはこのミスの6位ぐらいに入って、なんとか5万部くらい売れると良いなあと思っていたんですが。いろんなところで話しているので、ご存じの方も多いと思うんですが、ルメートルとの縁は、もともと中学2年生の娘が持ってきたものなんです。図書委員で、大きな書店で図書館に入れる本の買い付けをするという実習で、なぜかルメートルの初紹介作『死のドレスを花婿に』を選んで買ってきた。聞いたことのない謎のミステリ本が家にあるのに気がついて、どうだったかと感想を訊いたら、とても面白かったと」
 ――いや、どう考えても普通のJCが喜ぶ本じゃない(笑)。
永「版元の柏書房は、『清掃魔』『治療島』など変なミステリを刊行しているので、きっと好みに合うだろうと早速読んでみたら、これはすごいと。後書きも凄く熱い書き方で、翌日すぐエージェントに他の作品の権利が空いているか問い合わせました」
 ――タイトルも素晴らしいですね。原題は Alex ですが、「その女」をつけることでがらりと印象が変わる。
永「『アレックス』だと寂しくありません? 普通は男の名前だし、そもそも人間かどうかもわからない」
 ――犬かと(笑)。
永「あれは迷いなく題名をつけました」
 ――そうだ、せっかくなので10月発売の担当書を宣伝していってください。
永「ルメートルの『悲しみのイレーヌ』が10月上旬に発売です。これはミステリを意識的に読んでいる読者ほど衝撃が強くなる、というかひどい!と思うかもしれない。こちらは文庫で、単行本ではディーヴァー『スキン・コレクター』が出ます。『ボーン・コレクター』『ウォッチメイカー』とトリロジーをなすような作品で、ディーヴァーの気合いが感じられます。お楽しみに」
 ――というわけで、今月号は無事収録終わりました。次号の予定? 知らん!

『ミステリーズ!vol.73』2015年10月号より転載)







〈刑事ヴァランダー・シリーズ〉の著者が贈る、孤独な男の贖罪と再生、そして希望の物語。ヘニング・マンケル『イタリアン・シューズ』


かつて恋人と交わした、人生で一番美しい約束を果たすため、男は旅に出る……


 世間を避けるように、ひとり離れ小島に住む元医師フレドリック。彼は過去に犯した医療ミスから逃れるように、この島で隠遁生活を送っている。仲間と言えば年老いた犬と猫だけ。群島の郵便配達人と言葉を交わすほかは、ほとんど人と話すこともない。

 そんな彼のもとに、ある日、三十七年前に捨てた恋人ハリエットがやってくる。治らぬ病に冒された彼女は、かつてフレドリックが彼女にした約束を果たしてくれるよう、求めにきた。「わたしが生まれてからいままでの間にもらった一番美しい約束」。白夜の下、スウェーデン北部の深い森の中に広がる湖で二人で泳ごう、という昔の約束を果たすよう求めに来たのだ。三十七年前、フレデリックはその約束を果たすことなく、ハリエットを捨ててアメリカにわたってしまった。

 人生の黄昏を迎えたいま、かつての恋人のたったひとつの願いをかなえるべく、フレドリックは島をあとにする。その旅が彼の人生を思いがけない方向へと導くとも知らず……。

〈刑事ヴァランダー・シリーズ〉の著者、北欧ミステリの帝王が描く、孤独な男の贖罪と再生、そして希望の物語。。







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